白血球分画など一般採血の結果で下垂体腺腫の予後が推定出来る

公開日:

2021年2月13日  

最終更新日:

2021年3月5日

Pre-operative serum inflammation-based scores in patients with pituitary adenomas

Author:

Marques P  et al.

Affiliation:

Department of Medicine, Division of Endocrinology and Center for Endocrine Tumors Leiden (CETL), Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:33230695]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2020 Nov
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

CBC,CRPなど一般採血検査データとそれらの組み合わせのスコアが癌や悪性脳腫瘍の予後推定に役立つことが報告されている(文献1,2,3).下垂体腺腫ではどうか.ライデン大学のチームは424例の下垂体腺腫を対象にこの問題を検討した.
使用した指標はNLR(好中球数/リンパ球数),PLR(血小板数/リンパ球数),LMR(リンパ球数/単球数),SII(全身免疫炎症指数:血小板数×好中球数/リンパ球数),NPS(好中球数と血小板数の関係[0~2点]),PNI(予後栄養指標:アルブミン値[g/L]+リンパ球数×5),GPS(グラスゴー予後スコア:CRP値とアルブミン値の関係[0~2点])の7種類.

【結論】

クッシング病では,他の腺腫に比較して,術前の血小板,白血球,好中球,単球の数が多く,NLR,NPS,SIIが高かった.クッシング病ではコルチゾルの過剰分泌の程度(一日蓄尿中コルチゾルなどの指標)は白血球数,好酸球数,好塩基球数,GPSに影響を与え,手術後に追加治療を要したものでは術前血小板数が相対に低かった(<29.9万/1 μL).
クッシング病以外の腺腫では鞍上進展,海綿静脈洞浸潤,下垂体機能低下を伴うものはGPS ≧1であり,NPS≧1は鞍上進展と相関していた.
非機能性下垂体腺腫のうち再手術や複数の治療手段が必要になったものは術前のリンパ球数が少なく,NLRとPLRが高かった.

【評価】

癌患者における血液像や一般検査所見と予後との関係については豊富なエビデンスが蓄積している.白血球増多は腫瘍から分泌される骨髄増殖因子による作用や,組織破壊による炎症-サイトカインの放出によって起こる.リンパ球は抗腫瘍細胞であり,その減少は腫瘍抑制効果の減弱につながる.アルブミンレベルは栄養状態と免疫機能の状態を反映している.癌患者では一般に,NLR,PLR,NPS,SII,GPS高値とLMR,PNI低値が予後不良の指標とされている(文献1,4).脳腫瘍に関しても髄膜腫やグリオーマで同様の報告が認められるが(文献2,3,5),下垂体腺腫に関しての包括的な研究は本報告が最初のものである.
下垂体腺腫は,各種ホルモンの分泌は当然であるが,癌腫と同様にサイトカイン,ケモカイン,各種増殖因子を放出するし,また腺腫内の局所的な梗塞や出血ではこれらの放出が増加すると推測されている.
当然,下垂体卒中例では激しい炎症が惹起されサイトカインが放出されるので(文献6),本研究でも全白血球数,好中球数,単球数は多く,GPSは高かった.一方,血小板数は低かった.
クッシング病の場合は,過剰なACTH,コルチゾル分泌が総白血球増多,好中球増多,好酸球減少などの血液像の変化をもたらすことは良く知られているところであるが,手術後に追加治療が必要となった症例では手術前の血小板数が相対に低かったという事実は目新しい.また,非機能性下垂体腺腫における鞍上進展,海綿静脈洞浸潤とGPSやNPSとの関係なども新規の指摘である.
本研究で明らかになった下垂体腺腫各亜型の臨床像と血液像や一般血液検査所見との関係は,簡単な日常検査で得られる情報であるので,事実とすれば臨床的に極めて重要な発見である.一つ一つにつき,より大規模なコホートでの検証が必要である.また,それぞれの相関あるいは逆相関がどのようなメカニズムを背景にしているのかも重要な研究テーマである.

執筆者: 

木下康之   

監修者: 

有田和徳