鞍上部進展を有する下垂体腫瘍のドーム横径/ネック横径(D/N比)に基づく3分類の臨床的意義

公開日:

2024年7月29日  

Morphological Classification of Pituitary Tumors With Suprasellar Extension

Author:

Sarkar S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38047633]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Jun
巻数:94
開始ページ:1183

【背景】

下垂体腫瘍(PitNET)の経鼻内視鏡的摘出における根治性,安全性,術後下垂体機能は鞍上進展部の形態に左右される.ブリガム・ウィメンズ病院脳外科は,過去10年間に経鼻内視鏡的に摘出術を行った下垂体腫瘍のうち5 mm以上の鞍上進展を有する160例(非機能性腫瘍80.6%)を,Type 1(鞍隔膜部でのネックなし)の108例,Type 2A(ドーム横径/ネック横径[D/N比]が >1~<1.3)の28例,Type 2B(狭いネックを有しD/N比 ≥1.3)の28例の3型に分類して手術成績を解析した.術前では,Type 2Bの腫瘍径が最も大きく(p <.001),視機能障害率が最も高かった(p <.001).

【結論】

3つのタイプ分け分類は,術中髄液漏,腫瘍残存,鞍上部腫瘍残存,尿崩症を含む術後合併症と有意に相関していた(いずれもp <.01で,Type 2Bが最も高率).
交絡因子調整後の多変量解析では,Type 2Bは低い肉眼的腫瘍全摘出の頻度(OR:0.22,p =.008),鞍上部腫瘍残存頻度(OR:18.08,p <.001),術中髄液漏(OR:5.33,p =.002),術後尿崩症(OR:4.89,p <.001)と独立相関した.  
鞍上部進展を有する下垂体腫瘍のドーム(鞍上部腫瘍最大横径)/ネック(鞍隔膜部横径)比に基づくこの3分類は,臨床的かつ手術療法にとって有益な分類である.

【評価】

下垂体腫瘍すなわちPitNET(主に非機能性下垂体腫瘍)の摘出度の予測にはKnosp Gradingが用いられることが多いが(文献1),腫瘍径や海綿静脈洞以外の方向への浸潤性が評価の対象になっていないなどの問題が指摘されてきた.これに対してZurich下垂体スコア(腫瘍最大横径/両側内頚動脈C4間距離),Nishiokaの頭蓋内進展度(Intracranial extension index)や腫瘍辺縁不整度,BNIのTRANSSPHERグレード(グレード:0-3,腫瘍最大径4 cm以上,鞍隔膜を超えた結節状の腫瘍進展,海綿静脈洞浸潤に各1点を付与)などの摘出度予測因子が提案されてきた(文献2,3,4).
本研究はハーバード大学ブリガム・ウィメンズ病院脳外科が提案する単純なD/N比(鞍上部腫瘍最大横径/鞍隔膜部[ネック]での横径)が有する下垂体腫瘍摘出度と術中・術後合併症発生に対する予測能を検討した結果である.本研究の結果,D/N比 ≥1.3のType 2Bが腫瘍摘出度(残存度),術中・術後合併症発生率の独立した相関因子であることが明らかになった.気になるのは海綿静脈洞への浸潤が評価の対象に入っていないことであるが,D/N比で分けた3群(Type 1,2A,2B)の海綿静脈洞内浸潤(Knospグレード3か4)の頻度は33.3%,23.8%,38.5%であり,3群間で差はなかった(p =.281).
D/N比は,下垂体腫瘍の術前MRIに基づいて容易に算出できる指標であり,本研究結果の正当性は他施設の症例で早急に検証されるべきである.ただし,D/N比は連続変数であり,1.3がどこから導きだされたカットオフ・ポイントであるかは明らかにされていない.やはり,ROC解析でこのカットオフ・ポイントの正当性を証明すべきであろう.さらに,下垂体外科医にとって欲しいのは,D/N比や他の指標がこれ以上であれば,最初から開頭手術を選択した方が良い!というカットオフである(文献5).今後の研究の進化に期待したい.

執筆者: 

有田和徳