サイレント・コルチコトロフ下垂体腫瘍(SCT)の臨床像:29報告985例のメタアナリシス

公開日:

2024年7月29日  

The clinicopathological features and prognosis of silent corticotroph tumors: an updated systematic review and meta-analysis

Author:

Vuong HG   et al.

Affiliation:

Department of Pathology, University of Iowa Hospitals and Clinics, Iowa City, IA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37462809]

ジャーナル名:Endocrine.
発行年月:2023 Dec
巻数:82(3)
開始ページ:527

【背景】

サイレント・コルチコトロフ下垂体腫瘍(SCT)は2017年に発行されたWHO内分泌臓器腫瘍の分類(第4版)で定義された腫瘍である(文献1,2).SCTはT-pit系統の腫瘍で免疫組織学的にはACTH産生能を示すことが多いが,ACTH過剰症は伴わないため,いわゆる非機能性下垂体腫瘍(NFT)に入る.SCTは他のNFTと比較してよりアグレッシブな腫瘍であることが報告されているが,その病態は十分に明らかにはなっていない.本研究は2010年以降の29報告985例のメタアナリシスで,SCT以外のNFTや機能性コルチコトロフ下垂体腫瘍(FCT)と対比しながらその臨床像を明らかにしようとしている.

【結論】

他のNFTと比較して,SCTは女性に多く(OR:2.08),より若年で発症しやすかった(標準差MD:-2.65).他のNFTと比較して腫瘍径やKi67陽性率に差はなかったが,海綿静脈洞浸潤(OR:2.43),下垂体卒中が多かった(OR:2.96).臨床症状としては,視機能障害や下垂体機能低下に差はなかったが,SCTでは頭痛発症が多かった(OR =1.81).
腫瘍全摘出率には差がなかったが,SCTは手術後に副腎皮質機能不全,新規の視機能障害,腫瘍の再発を示しやすかった.
FCTと比較して,SCTは男性,高齢者に多く,腫瘍径が大きかった.USP8変異はFCTで有意に多かった(OR =0.27).

【評価】

本研究は,下垂体コルチコトロフ転写因子であるT-pit陽性ながらACTH過剰症(クッシング病症状)を呈さないため,広い意味での非機能性下垂体腫瘍(NFT)に含まれるサイレント・コルチコトロフ下垂体腫瘍(SCT)の臨床像を,SCT以外のNFTあるいはACTH過剰症を有する機能性コルチコトロフ下垂体腫瘍(FCT,クッシング病に一致)との比較において描出したものである.
985例という膨大なSCT症例のメタアナリシスの結果,従来から報告されているように,SCTの患者年齢は比較的若年で,女性に多く,海綿静脈洞浸潤の頻度が高く,手術後の再発が多いことを明らかにした(文献3,4,5,6).
本研究で気になるのは,塊集した29報告でT-pit免疫染色を用いてSCTの診断を行っているものは,日本のNishiokaらの報告やAmanoらの報告を含む6報告に過ぎなかった点である(文献7,8).したがって,他の23報告ではおそらくACTH免疫染色で陽性でありながらクッシング病症状を呈さない腫瘍のみをSCTとして報告しているものと思われる.確かにSCTの多くは免疫組織学的にはACTHとT-pitに陽性であるが,ACTH(-)でT-pit(+)のSCTもあり得る(文献7,9).免疫染色に使用出来るT-pitが市販されていないという現状では致し方がないのかも知れないが,ACTH(+)で臨床症状を呈さない腫瘍のみをSCTとすると,かなりの割合で存在するACTH(-)でT-pit(+)のSCTを解析から除外することになる.
このため,本稿ではT-pit免疫染色を用いてSCTの診断を行っている6報告を別途取り出して解析している.この6報告に含まれる症例の解析でも,他のNFTと比較して,SCTは女性に多く,より若年で,頭痛発症が多く,海綿静脈洞浸潤が多く,術後の腫瘍増大のリスクが高かった(文献10).
なお,2017年のWHO分類ではSCTはタイプ I(densely granulated)とタイプ II(sparsely granulated)に分けられるが,本レビューの対象となった報告では両者を分けて論じたものは3報のみであった.この3報に基づけば,性・年齢や臨床像に差はなかった.
このように他のNFTに比較してアグレッシブで再発率の高いSCTであるが,手術前に予測する方法はないのか.これについては筑波大学放射線科のAmano Tらが,ゴナドトロピン産生腫瘍(NFTの最大グループ)と比較して,SCTではダイナミックMRIでのtime-intensityカーブの立ち上がりが急峻で早期に低下する事を報告している(文献8).

執筆者: 

有田和徳

関連文献