手術前のドパミン作動薬長期投与がプロラクチノーマの手術に与える影響:ハンブルク・エッペンドルフ医療センター脳外科の159例

公開日:

2024年8月9日  

最終更新日:

2024年8月9日

Preoperative treatment with dopamine agonist therapy influences surgical outcome in prolactinoma: a retrospective single-center on 159 patients

Author:

Ryba A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Medical Center Hamburg-Eppendorf, Hamburg, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:39085706]

ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2024 Aug
巻数:166(1)
開始ページ:316

【背景】

大部分のプロラクチン産生下垂体腫瘍(PRLoma)に対する治療の主体はドパミン作動薬(DA)である.DAで十分な効果が得られない場合には手術療法が選択されるが(文献1),DA長期投与は腫瘍の線維化を引き起こし,摘出手術を困難とする可能性が報告されている(文献2,3,4).ハンブルグ・エッペンドルフ医療センター脳外科はPRLomaに対する直近10年の経鼻手術の自験159例を対象にこの問題を解析した.133例(83.6%)では手術前にカベルゴリンを中心とするDA療法が先行し,26例(16.3%)ではDA療法はなかった.DA先行群のうち63.9%は薬剤抵抗性,36.1%は薬剤不耐が手術の理由であった.

【結論】

術前DA投与期間は平均5.16年.初診時腫瘍径はDA先行群1.9 cm3,非DA群1.5 cm3,初診時血中PRL値はDA先行群199.7 μg/l,非DA群191.0 μg/lであった.全例で経鼻的顕微鏡下手術が行われた.手術時間はDA先行群で有意に長く(79 vs 70分,p =.0479),手術後6ヵ月後で追加治療前の血中プロラクチン値はDA先行群で有意に高かった(107 vs 8.64 μg/l,p =.0009).マイクロPRLoma症例94例の手術後寛解率は,DA先行群80例で88.8%,非DA群14例では100%であった.重篤な合併症はDA先行群で1例のみ(内頚動脈損傷)に認められた.

【評価】

本稿は,エキスパートの手によるPRLomaに対する経鼻手術であっても,カベルゴリン等のDA治療先行症例では非投与症例と比較して手術時間が延長する事を示している(79 vs 70分,p =.0479).特にこの差は,マイクロPRLoma症例で顕著であった(74 vs 61分,p =.0183).このことは,DA治療先行例では,過去に報告されているような線維化などのために手術がより困難であったことが想像される.また,手術後の血中プロラクチン値はDA非投与群で有意に低く,特にマイクロPRLomaでは手術後の寛解率はDA非投与群で100%,DA先行群で88.8%であった.この事実は,マイクロPRLoma症例では薬物療法よりも手術を推奨するとしたPituitary Societyの “Consensus statements 2023” を支持するものとなっている(文献5).
一方でマクロPRLomaでは話は簡単ではなく,本研究では,術前DA投与群と非投与群ではMRI上の再発率に差はなかった(25 vs 24.5%).また,マクロPRLomaの術前DA非投与群の中でも術後新たにDA治療が必要になった患者もいた(8.3%).これらのことを考慮すれば,マクロPRLomaのうち比較的小型でコンパクトなもの(Knospグレード ≤1)については手術を先行させることが推奨されるかもしれない(文献5).逆に浸潤性の腫瘍や2 cmを超える大型の腫瘍では手術によって血中プロラクチン値が正常化するチャンスはほとんどない.プロラクチン値を正常化させるためには結局DA療法を行わなければならず,手術療法の利点である根治性は活かされないのでDA療法が優先されるべきであろう.

執筆者: 

有田和徳