頭蓋咽頭腫治療後の視床下部性肥満に対するセマグルチド皮下注の効果

公開日:

2024年9月15日  

Semaglutide as a promising treatment for hypothalamic obesity: a six-month case series on four females with craniopharyngioma

Author:

Gjersdal E  et al.

Affiliation:

Department of Endocrinology, Aalborg University hospital, Aalborg, Denmark

⇒ PubMedで読む[PMID:39088138]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

セマグルチド(Semaglutide)は,2型糖尿病および重症肥満症に使用されるノボノルディスク社が開発したGLP-1受容体作動薬で,4年ほど前から日本でも保険適用となっている.本稿は,頭蓋咽頭腫治療後に発生した視床下部性肥満患者の女性4名(年齢22-69歳)に対するセマグルチド皮下注射(漸増投与で,最終投与量は1.7か2.4 mgを1回/週)の使用経験である.4例とも手術に加えて放射線照射が実施されており,汎下垂体機能低下症を示し,デスモプレシン,成長ホルモン,レボサイロキシンの補充中であった.4人のBMIは45.2,55.5,36.0,55.5であった.

【結論】

治療開始前と比較してセマグルチド治療開始6ヵ月後では,平均体重(126.0→105.8 kg),平均BMI(48.0→40.1),平均全脂肪(58.6→48.5 kg),平均体幹脂肪(25.7→21.6 kg),平均除脂肪体重(66.9→55.9 kg)と,いずれも有意に減少した(p <.05).HbA1cも有意に低下した(38.5→34.0 mmol/mol).
治療開始前と比較してセマグルチド治療開始1ヵ月後では,食習慣質問票(TFEQ-R18)スコアの感情的摂食スコア平均値(47.2→5.6,p =.02)や制御不能な摂食スコア平均値(33.3→10.2,p =.11)は低下した.

【評価】

頭蓋咽頭腫が視床下部に浸潤した場合,肥満,睡眠サイクル異常,体温調節異常,渇感異常,下垂体機能障害などの視床下部症状を示すことがあり,これらの症状発現は手術後に顕著になることが多い.特に,視床下部性肥満は頭蓋咽頭腫の術後患者の約50%で認められる症状で(文献1,2,3),多くはBMI 35以上のmorbid obesity(病的肥満)を呈する.前部視床下部の腹内側核(VMN)や弓状核(ARC)の障害による食欲亢進が関与しているとされている(文献4,5).
視床下部性肥満の患者では,心血管合併症の頻度が高く,QOLが低く,死亡率が高いことが知られているが(文献6),そのコントロールは極めて困難である(文献7).GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドは血糖依存的なインスリン分泌促進を介した血糖降下作用のほか,中枢における摂食抑制作用を有し,肥満症患者に対する体重減少効果を示す.セマグルチドはデンマークのノボノルディスク社が開発した製品であるが,日本では2型糖尿病に対してのオゼンピック(注射薬)とリベルサス(経口薬)の製造販売承認に続いて,2023年3月に抗肥満薬としてのウゴービ皮下注の承認が得られている.
本稿は,デンマークAalborg大学内分泌科で視床下部性肥満を含む種々の内分泌代謝障害に対する治療を行っている頭蓋咽頭腫治療後の4人の女性患者に対するセマグルチド皮下注の効果の報告である.体重,BMI,全脂肪,体幹脂肪,除脂肪体重,HbA1c,中性脂肪,総コレステロールなどの指標が,治療前より治療開始後6ヵ月で有意に低下しており,食習慣質問票(TFEQ-R18)でも感情的摂食スコアや制御不能な摂食スコアが低下していた.
また,患者は野菜の摂取量が増え,甘いものや高カロリー加工食品の摂取量が減ったことを報告しているという.
視床下部性肥満の患者は世界中の間脳下垂体疾患センターで数多く抱えており,治療には難渋しているはずである.より多くの患者に対する,より長期の治療の結果が明らかになることを期待したい.また患者のQOLに与える影響も知りたいところである.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

藤尾信吾