成長ホルモン欠損症に対する補充療法の長期効果と安全性:神戸大学の110例,最長196ヵ月の追跡結果

公開日:

2025年1月17日  

最終更新日:

2025年1月17日

Long-term metabolic effectiveness and safety of growth hormone replacement therapy in patients with adult growth hormone deficiency: a single-institution study in Japan

Author:

Oi-Yo Y  et al.

Affiliation:

Division of Diabetes and Endocrinology, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39298061]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2024 Oct
巻数:27(5)
開始ページ:605

【背景】

成人成長ホルモン欠損症(AGHD)に対するGH補充は,AGHDに伴う種々の代謝異常を改善し,QOLを向上させることが知られている(文献1,2,3).一方,GH補充療法の効果と安全性に関しては長期の経過観察が必要であるが,少なくとも日本では,GH補充療法の開始が欧米に比較して遅れたため,10年を超えるような長期追跡の結果は明らかではない(文献4).本稿は神戸大学糖尿病・内分泌内科でGH補充療法(一日一回)を行っていた重症AGHD患者110例(診断時平均年齢:47歳,男性46.4%)の長期追跡の結果である.成人期の発症は70.9%で,大多数の患者は複数の下垂体ホルモン分泌障害/補充を伴っていた.

【結論】

追跡期間は14–196ヵ月(中央値68ヵ月)で,11年以上は17例.補充開始5年目のGH補充量は0.4 mg/日で,IGF–1のSDS値は10年以上にわたって正常範囲内(±2SD)であった.BMIは補充開始以降徐々に増加した.腹囲は10年目までは開始前より減少したが11年目以降は上昇した.
拡張期血圧はGH補充開始後5年間は低下したが,その後上昇した.収縮期血圧は11年目以降上昇した.経過観察期間を通じてLDLは低下しており,HDLは上昇していた.HbA1Cは3年目以降上昇した.ASTとALTは経過観察期間を通じて低下していた.骨密度は経過観察期間を通じて徐々に上昇した.有害事象は8例(7.3%)で認められた.

【評価】

成人成長ホルモン欠損症(AGHD)に対するdailyのGH補充を行っている日本人患者の,中央値68ヵ月の長期追跡の結果である.先ず,単一施設で110例という症例の豊富さに圧倒される.
解析の結果,脂質プロファイル,肝酵素値,骨密度は持続的に改善していた.GH補充による効果であろう.特に骨密度の上昇は,患者の高齢化とともに問題となってくる骨粗鬆/骨折を予防するものとして重要である.
一方,BMIは徐々に増加し,腹囲,血圧,HbA1Cは補充開始後数年経ってから上昇する傾向が認められた.これらがGH補充のネガティブな影響なのか,あるいは加齢による変化なのかは,性・年齢を調整した対照群との比較に基づいて結論づける必要があろう.また今後,10年後,20年後にどう変化するのかも知りたいところである.
有害事象8例の内訳は肺癌1例,大腸癌1例,グリオーマ1例(胚腫治療後の患者),髄膜腫1例,残存下垂体腫瘍の増大2例,脳血管障害1例,急性心不全1例であった.いずれも成長ホルモン補充療法との直接的な因果関係はなさそうである.また,過去の大規模な登録研究でもAGHDに対する成長ホルモン補充が悪性腫瘍の発生率を高めないことが報告されている(文献5).ただし、この問題も対照群を設けた多数例での検討が必要である.
本研究はdailyのGH補充を受けている患者,あるいはdailyのGH補充を受けている期間の解析である.本邦でもweeklyのGH補充が保険適用になって既に4年近くが経過している.Dailyからweeklyにスイッチした患者も対象とすれば,さらに長期的なGH補充の臨床像が明らかになるであろう.
一方で,QOLに関しても長期的な変化の解析が必要である.著者らの今後の研究の発展に期待したい.

<著者コメント>
本論文は,これまでの神戸大学におけるGH補充患者のデータをもれなく蓄積した大学院生大井佑夏,指導教官山本雅昭の力作である.本研究では,特に脂質異常症や骨粗鬆症に対する薬剤介入の影響を除いているところにも,従来にはない特徴がある.GH補充療法を受けている患者の状況を臨床で感じている実感と一致した形で示すことができたと思う.一方,対照群が十分でないため,限界もある.今後weekly GH補充についても検討をし,報告して行きたいと思っている.(神戸大学糖尿病・内分泌内科 福岡秀規)

執筆者: 

有田和徳