7T-MRIでは下垂体前葉後縁の裂隙が66%以上の頻度で発見される:ミネソタ大学の連続100例

公開日:

2024年11月29日  

最終更新日:

2024年12月4日

Prevalence of Rathke Cleft and Other Incidental Pituitary Gland Findings on Contrast-Enhanced 3D Fat-Saturated T1 MPRAGE at 7T MRI

Author:

Mir M  et al.

Affiliation:

University of Minnesota Medical School, Minneapolis, Minnesota, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38914432]

ジャーナル名:AJNR Am J Neuroradiol.
発行年月:2024 Nov
巻数:45(11)
開始ページ:1811

【背景】

7T-MRIでは下垂体無症候性病変がしばしば発見される.本稿はミネソタ大学MRリサーチセンターで,2021年10月から約2年間に,脂肪抑制造影T1強調MPRAGEを用いた7T-MRI検査がされた100症例(平均年齢47.3,女性64例)の下垂体部の画像を評価して,下垂体部の無症候性所見の頻度を明らかにしたものである.MRI検査の理由はてんかん10例,頭痛10例,MS8例,下垂体腫瘍8例,けいれん6例など多岐にわたっていた.
100例中,腺性下垂体(下垂体前葉)後縁のcleft(裂隙)状低信号有りが66例,無しが31例,どちらとも言えないが3例であった.裂隙状低信号有り群となし群では男女差,年齢に差はなかった.

【結論】

cleft状低信号有り66例のうち20例が再度のMRI検査を受けた.再検時のMRI磁場強度と裂隙状低信号の再検出頻度は,7T:3/3,3T:1/12,1.5T:1/5であった.
100例中,下垂体内の腫瘤像有りは22例,無しは75例,どちらとも言えない3例であった.22腫瘤中7例はラトケのう胞,3例は下垂体内に取り込まれた髄液,6例は微小下垂体腺腫,7例はラトケのう胞か下垂体内に取り込まれた髄液のいずれかと推定された.
この撮像法では磁化率and/or体動アーチファクトは54%で認められた.裂隙状低信号が無かった群では,このアーチファクトが多かった.

【評価】

本研究は,種々の理由で,7T-MRI臨床機で脂肪抑制造影T1強調MPRAGEを用いた頭部の検査を受けた100例(下垂体部病変13例,それ以外が87例)では,66例で腺性下垂体(下垂体前葉)の後縁にJ形やC形をしたcleft(裂隙)状低信号が認められることを明らかにした.一方,この裂隙状低信号は,経過観察でも,7T-MRIを用いた場合の再現率は3/3と高かったが,3Tあるいは1.5T-MRI機器では2/17と再現率は低く,その多くが7T-MRI機でのみ検出される所見と判断された.
この裂隙状低信号が無いケースではアーチファクトの陽性率が高かった.
著者らは,この7T-MRIで発見される裂隙状低信号を下垂体中間葉かラトケ裂隙遺残と推定しているが,その頻度は100例中66例に達していることになる.さらに,約半数のケースで認められるアーチファクトによって裂隙状低信号の検出が妨げられている可能性もあるので,実際にはその頻度はもっと高いはずであるという.
2022年の島根大学Gobaraらの報告によれば,T2強調3T-MRIによる212個の下垂体のスクリーニングでは,腺性下垂体の後縁にT2低信号が37.7%の頻度で認められ,そのうち17.5%はベルト状を呈していた(文献1).Gobaraらもこのベルト状のT2低信号を下垂体中間葉かラトケ裂隙遺残と推測している.
本報告では,腺性下垂体後方の裂隙の検出頻度はGobaraらの報告の約4倍であったわけだが,この差は使用したMRIの磁場強度=分解能の高さによるものと思われる.
一方,従来の報告では,ラトケのう胞(ラトケ裂隙遺残ではない)の剖検での発見頻度は13-23%である(文献2,3).1.5Tあるいは3T機種を用いたMRIでの発見頻度は3%前後とされているが(文献4,5),本報告の7T-MRIでのラトケのう胞の発見頻度は7%であった.1.5Tあるいは3T機種との差もやはり,7T-MRIの高い空間分解能,濃度分解能によるものであろう.
本稿で興味深いのは,ラトケのう胞の7例は全て裂隙状低信号を伴っており,裂隙状低信号を伴わないケースではラトケのう胞はなかったことである.7T-MRIで検出される腺性下垂体後縁の裂隙(ラトケ裂隙遺残)とラトケのう胞の存在との間に何らかの関係があることを示唆させる.
本稿での,もう一つ興味深い発見は,100例中3例では下垂体内に取り込まれた髄液(entrapped CSF)と判断されたのう胞が,また100例中7例ではラトケのう胞か下垂体内に取り込まれた髄液と判断されたのう胞が認められたことである.この下垂体内entrapped CSFは腺性下垂体内へのくも膜の嵌入として正中(下垂体茎)から離れた鞍隔膜の下方に認められたという(この部位のラトケのう胞はまれ).このような下垂体内あるいは下垂体に隣接する髄液性のう胞としてはくも膜のう胞が知られているが,その最も微小な段階のものを観察しているのであろうか.
7T-MRIは2022年の段階で,世界で80台,本邦で5台が稼働しており,今後徐々に普及すると思われるが,7T-MRIで発見される下垂体内微小所見の本態,頻度,臨床的意義の明確化は今後の課題である.

<コメント>
本論文は,7T-MRIで撮像された頭部MRI脂肪抑制造影T1強調像(MPRAGE法)において全症例の66%で腺性下垂体(下垂体前葉)の後縁にJ形やC形をした裂隙状低信号が認められたと報告し,この裂隙状低信号を発生時の遺残構造であるRathke cleftもしくは下垂体中間葉と推定している.本論文で引用されている拙論(文献1,PMID:35357532)では,3T-MRIで偶発的に認める腺性下垂体後縁のベルト状ないし点状のT2強調像低信号域(T2 hypointense signal at the posterior edge of the adenohypophysis:T2HSPA)の頻度と年齢との相関について検討し報告した.我々の検討ではT2HSPAは全症例の37.7%で検出され,加齢と共にサイズが縮小した.これらの結果から,我々はT2HSPAはラトケ嚢胞もしくは出生後は痕跡的に認められる下垂体中間葉といった発生過程の結果残存する嚢胞性変化と推定した.今回のMirらの検討ではT2強調像での信号強度は検討されていないが,造影T1強調像で認められた裂隙状低信号域はT2HSPAと同じ構造である可能性が高い.7T-MRIは3T-MRIよりも空間分解能及び信号対雑音比やコントラスト雑音比が高いといった理由で検出率に差が出ているものと考える.本論文と拙論では共通してこの裂隙状構造の組織学的な証明が得られていないため,今後組織学的な裏付けがなされるとともに,更に大規模な検討にて病的意義や経時的変化の有無,ラトケ嚢胞との関連などについて解明されることを期待する.(島根大学医学部放射線医学 河原愛子)

執筆者: 

有田和徳