クモ膜下出血の治療方法の違いと転帰:本邦における登録研究(J-ASPECT)から

公開日:

2017年7月15日  

最終更新日:

2017年7月31日

Effect of treatment modality on in-hospital outcome in patients with subarachnoid hemorrhage: a nationwide study in Japan (J-ASPECT Study).

Author:

Kurogi R  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan 

⇒ PubMedで読む[PMID:28548595]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2017 May
巻数:
開始ページ:

【背景】

動脈瘤破裂によるクモ膜下出血に対してはクリッピングとコイリングの二つの治療法がある.2002年に発表されたISAT研究はクリッピングに対するコイリングの優位性を示したが,ISAT研究の対象は主として高い臨床グレードを呈する比較的小さな前方循環の脳動脈瘤であった.したがって,現在でも,クモ膜下出血全体に対する治療法としてどちらに優位性があるかが明らかになっているわけではない.本研究は,J-ASPECTに登録された症例のデータを基に,両群間で,入院中死亡・退院時mRS・脳梗塞・合併症・在院日数・医療費を比較した.対象症例は2012年4月〜2013年3月にクモ膜下出血で救急入院した患者 (N=5214;クリッピング:3624,コイリング:1590).

【結論】

コイリング群の方が,クリッピング群より入院中死亡率は有意に高く(12.4% vs 8.7%,OR 1.3),在院日数中央値は有意に短かった(32.0 vs 37.0 days,p < 0.001).退院時mRS(46.4% vs. 42.9%),医療費(US$中央値:35.7 vs. 36.7)には差は無く,これらの事実は包括的脳卒中センター(CSC)スコアで調整しても不変であった.

【評価】

J-ASPECTは九州大学の飯原を研究代表者として,2010年から開始された本邦におけるDPC,レセプト等情報を基にした脳卒中の前向き登録研究である.2017年までに全国400施設を網羅し,30万症例が登録されている.J-ASPECTには「包括的脳卒中センターの整備に向けた脳卒中の救急医療に関する研究」,「脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究」,「脳卒中の医療体制の整備のための研究」などが含まれる.本論文ではJ-ASPECTのデーベースからクモ膜下出血を取り上げ,治療法の違いによる機能予後,合併症,在院日数などの違いを求めたものである.
2002年のISATを受けて,本邦でも破裂動脈瘤に対してコイリングが選択されることが増えている.しかし,本研究によれば,本邦ではクモ膜下出血症例のうち,未だ70%がクリッピング治療を受けていることが明らかになった.クリッピング群に対してコイリング群は有意に高齢者が多く(62.0 vs. 63.5歳,p = 0.003),昏睡患者(JCS3桁)が多かった(23.7% vs. 30.9%,p < 0.001).すなわちより重症の患者に対してコイリングが実施されていることになる.そのことが,入院期間内における死亡率を高めている可能性は否定出来ない.
本研究はDPCデータ,レセプト情報をもとに構築されたデータベースに基づいているので,クモ膜下出血の重症度(WFNS grade),動脈瘤の部位,大きさなど可能性のある交絡因子の検討は出来ていない.これら交絡因子の影響の解明はこれからの課題であるが,にも関わらず,多数例を基に死亡率,mRS,在院日数など頑強な指標について,2群の情報を提供している点で本論文は重要である.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

菅田真生

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