イブルチニブによる中枢神経性悪性リンパ腫の治療

公開日:

2017年8月28日  

Inhibition of B Cell Receptor Signaling by Ibrutinib in Primary CNS Lymphoma.

Author:

Lionakis MS  et al.

Affiliation:

Laboratory of Clinical Infectious Diseases, National Institute of Allergy and Infectious Diseases

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ジャーナル名:Cancer Cell.
発行年月:2017 Jun
巻数:31(6)
開始ページ:833

【背景】

B細胞リンパ腫は,CD79BやMYD88Bの変異などB細胞受容体(BCR)シグナルを持続的に活性化する遺伝子変異を持っている.本研究はBCRシグナリングのうち,Bruton型チロシンキナーゼ(Btk)を阻害するイブルチニブの効果を観察した概念実証試験(第Ib相)である.患者は18人で,最初イブルチニブ単独投与,続いてイブルチニブ+化学療法剤(DA-TEDDi-R)の投与を受けた.分子遺伝学的な検討が可能であった4例の腫瘍細胞ではCD79BとMYD88両者あるいはそのどちらかの変異が認められた.

【結論】

イブルチニブ単独で94%の腫瘍が縮小し,DA-TEDDi-Rで86%が完全寛解となった.しかし,39%(7/18)でアスペルギルス感染症が認められ,2例がそのために死亡した.Btkをノックアウトしたマウスでは,アスペルギルス感染による死亡率が野生型に比較して有意に高かった(p=0.013).

【評価】

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の亜型である中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)の多くはメソトレキセートや放射線に対する感受性が高く,高率に腫瘍の消失が得られるが,再発率は極めて高く,5年生存率は40%前後.
近年,PCNSLではCD79Bの変異やMYD88Bの変異(L265P)によってB細胞受容体(BCR)シグナルが持続的に活性化し,これによって腫瘍細胞の生存と増殖が亢進し,変異陽性例では患者の予後が不良なこともわかってきた.著者らによるメタ解析では,PCNSLのうち,CD79Bの変異,MYD88Bの変異は,それぞれ53%と56%の頻度で認められ,そのどちらも有さないのは24%に過ぎない.
Bruton型チロシンキナーゼ(Btk)を阻害するイブルチニブは,BCRシグナルの下流のNF-kBを抑制し,特にCD79BやMYD88B変異を有する活性化B細胞性(ABC)DLBCLに有効なことが示唆されてきた.本研究はPCNSLに対するイブルチニブの効果を実証しようとするIb相試験である.対象の18例のうち5例のみが初発症例であり,13例は複数の治療後の再発か他の治療に対して抵抗性であったものである.
本研究で示されたイブルチニブ単独による腫瘍縮小率(臨床反応率)94%は,先行する全身のABC DLBCに対する治験における臨床反応率の37%より高い.これは,一般のABC DLBCに比較してPCNSLではCD79Bの変異あるいはMYD88Bの変異を有する割合が高いことがその理由の1つとして考えられる.
本研究では7例(38%)にアスペルギルス感染症が認められ,このうち2例がそのため死亡している.アスペルギルス感染症は長期かつ深刻な骨髄抑制やステロイドの長期連用でも認められるが,これらの症例ではそのどちらも否定的であった.著者らは,アスペルギルス感染症はイブルチニブによるマクロファージの抑制によって免疫サーベイランスが無力化されることが原因の1つと考えている.
今回,PCNSLに対するイブルチニブの高い効果が示唆されたが,今後の治験の進行に当たっては,ステロイド剤使用の制限やボリコナゾールの予防投与も含めたアスペルギルス感染症の予防が重要な課題となる.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

平野宏文,内田裕之

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