神経誘導因子のKHS101は,膠芽腫細胞のエネルギー代謝障害を起こして細胞死を招く:ミトコンドリアにおけるヒートショック蛋白(HSP)活性の抑制

公開日:

2018年10月2日  

最終更新日:

2018年10月11日

KHS101 disrupts energy metabolism in human glioblastoma cells and reduces tumor growth in mice.

Author:

Polson ES  et al.

Affiliation:

School of Medicine, University of Leeds, Leeds, UK.

⇒ PubMedで読む[PMID:30111643]

ジャーナル名:Sci Transl Med.
発行年月:2018 Aug
巻数:10(454)
開始ページ:eaar2718

【背景】

KHS101は小分子化合物で血液脳関門を通過し,神経前駆細胞の神経細胞への分化を誘導する(文献1).また,細胞分裂に不可欠な微細管制御蛋白のTACC3を抑制する(文献2).著者等は,膠芽腫(GBM)から樹立した6個の細胞株と市販の2つのGBM細胞株(U251,U87),ヒトGBMマウス移植モデルを用いて,KHS101の作用を検討した.

【結論】

KHS101は,どの遺伝子亜型のGBM株でも細胞死をもたらしたが,正常な神経前駆細胞の増殖は妨げなかった.GBM細胞株に対する障害作用は,ミトコンドリアにおけるヒートショック蛋白(HSPD1)の作用の障害,その結果としてのエネルギー生産量と糖分解能の障害を伴った.ヒトウスGBM株のマウス移植モデルでも腫瘍の縮小と生存期間の延長が得られた.

【評価】

低分化(poorly differentiated)GBMの幹細胞としての性質は腫瘍の成長と関連しており,また低分化GBMと神経幹細胞との分子学的な類似性が指摘されてきた.このことから,神経幹細胞から神経への分化を誘導する因子が,GBMの成長を抑制するであろうことは容易に推測出来る.
一方,TACC3は微小管重合を活性化する微小管制御蛋白であり,分裂期にのみ発現して紡錘体の形成をコントロールしている.癌細胞ではその活性が亢進しており,TACC3を阻害すると癌腫は縮小する.現在,TACC3の特異的阻害剤も開発され,新しいメカニズムの抗癌剤として研究が行われている(文献3).さらに,GBMの3%にFGFR3-TACC3融合遺伝子が発見され,その後他の癌腫でも癌化に関わっていることが明らかになっている(文献4).
KHS101は幹細胞の神経細胞への分化誘導作用を有する低分子(分子量385)であり,同時にTACC3阻害作用を有する.KHS101の投与は,TACC3のダウンレギュレーションを引き起こして,GBM細胞の増殖抑制とアポトーシスをもたらすことが予測された.しかし,実際の抗腫瘍作用は,TACC3の抑制よりもっと早い段階で発現し,オートファジーとアポトーシスの亢進を伴った.著者等は,これが細胞内エネルギー代謝障害によって起こること,その機序としてミトコンドリアにおけるエネルギー代謝と不可分のヒートショック蛋白(HSPD1)活性の抑制を指摘しているが,詳細は未解明の部分も多いようであある.しかし,ヒトGBM-マウス脳移植モデルで腫瘍縮小と生存期間の延長が捉えられており,今後,KHS101あるいは類似の化合物によるヒートショック蛋白をターゲットとしたGBM治療の可能性が追求されるものと思われる.

執筆者: 

牧野隆太郎   

監修者: 

有田和徳

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