神経細胞の興奮は膠芽腫の増殖に寄与する

公開日:

2019年10月7日  

最終更新日:

2019年10月15日

Electrical and synaptic integration of glioma into neural circuits.

Author:

Humsa S. Venkatesh  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Stanford University, Stanford, CA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:31534222]

ジャーナル名:Nature.
発行年月:2019 Sep
巻数:573(7775)
開始ページ:539

【背景】

膠芽腫は非常に予後不良な中枢神経系腫瘍であるが,その成因には他の臓器の細胞癌化と異なるプロセスが関与しているかもしれない.
Stanford大学のHumsaらは,高悪性度神経膠腫(HGG)微小環境におけるシナプス発現ならびに,その電気的興奮が腫瘍増殖に及ぼす影響を,生検標本を用いたin vitro,疾患マウスモデル,ならびに成人患者の術中モニターで検証した.

【結論】

生検標本のトランスクリプトーム解析では,HGG細胞にシナプス遺伝子が広く発現していた.
神経細胞のシナプス発現因子であるNLGN3をノックアウトすると,共培養時に腫瘍細胞増殖を抑制した(p<0.0001).マウスモデルでは,HGGに電流を誘発するとAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)を介し興奮性シナプス後電流(EPSC)を発生した.AMPARの構成サブユニットのうち,GluA2を過剰発現させたマウスモデルは生存期間が短縮し,GluA2ドミナントネガティブ(DN)では生存期間が延長した(p<0.01).AMPAR阻害剤(ペランパネル)によりマウス疾患モデル(SU-DIPG-VI)における腫瘍増大は50%抑えられた(p<0.00001).成人HGG(IDH wild type)の術中脳波モニタリングにおいて,安静時高周波ガンマ波(70~110Hz)は正常脳組織よりも腫瘍浸潤脳組織に多かった(p<0.05).

【評価】

本研究の結果,「グリオーマは神経細胞との間にシナプスを形成し,双方向性の電気的活動が腫瘍増殖に寄与する」というコンセプトの妥当性が示唆された.本文中では,HGG細胞膜電位を人工的に脱分極させると腫瘍増殖が促進される(p<0.01)ことも示されている.
膠芽腫は生物学的な多様性や血液脳関門の存在により治療抵抗性が高い一方で,それほどの悪性度をもちながら中枢神経系外への浸潤がみられない点から,従来の細胞癌化とは別の因子の存在も示唆されていた.ニューロン興奮を介したNLGN3の膠芽腫増殖効果もその一つである(文献1,2).
本稿で指摘された「双方向性の電気刺激」とはシナプスを介した電気信号そのものだけではなく,神経細胞興奮に伴う電解質変化といった非シナプス性の関与がある点も注目したい.「腫瘍-神経細胞間の電気信号」は,今後期待し得る治療標的である.
本稿では,AMPAR拮抗薬が膠芽腫細胞-神経細胞間の腫瘍増殖効果を阻害することが示されている.AMPARはGluA1〜4のサブユニットからなるグルタミン酸受容体であり一般にCa不透過性であるが, GluA2の欠失や変異によりCa透過性に変化し,膠芽腫増殖へ寄与するというコンセプトは本邦のIshiuchiらが過去に報告している(文献3,4).
なお, Nature同号に掲載されたHeidelberg大学からの報告においては, 神経細胞興奮に伴うシナプス性・非シナプス性の腫瘍増殖機序やAMPAR拮抗薬による抗腫瘍効果など, 本稿と同様の検証がなされている.神経細胞と膠芽腫間の双方向性の電気的活動による腫瘍増殖・浸潤は, 新たな治療標的に関わる重要なテーマである.ペランパネルは抗てんかん薬として広く使用されるAMPAR拮抗薬である点からも,今後の臨床応用が期待される.

執筆者: 

牧野隆太郎   

監修者: 

有田和徳

メールで読みたい方はこちら

メルマガ登録する