米国の脳外科医は他科にくらべて患者苦情が多い:特に若い脳外科医,脊髄専門家がやられやすい

公開日:

2020年9月4日  

最終更新日:

2020年9月14日

Do neurosurgeons receive more patient complaints than other physicians? Describing who is most at risk and how we can improve

Author:

Dambrino IV RJ  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Vanderbilt University School of Medicine, Nashville, Tennessee, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:32736349]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2020 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

米国の脳外科医の19%は年に1回の医療過誤訴訟を受け,平均$344,811の損害賠償金を支払っており,医療過誤保険掛金は脳外科医個人にとって非常に大きな負荷となっている.
本研究は,他科と比較した脳外科への患者苦情の頻度,また患者苦情がどのような脳外科医に多いのかを検討したものである.調査には米国の6万人以上の臨床医のデータが登録されている患者苦情データベース(PARS)を用いた.解析期間は2014年1月~2017年12月の4年間で,423人の脳外科医を含む36,265人の臨床医のデータを解析した.

【結論】

4年間での脳外科医への患者苦情の回数は一人あたり8.68回で,非外科医の5.01回や他領域外科医の3.40回より有意に多かった(p<0.001).患者苦情回数の多さと有意に相関したのは医学部卒業年次(14回以上群で1993年,0回群で1990.5年)と脊椎脊髄専門家であった(脊髄専門家への苦情13.4回,他の脳外科領域の専門家への苦情7.9回,p<0.001).米国医学部卒業生と非米国医学部卒業生に差はなかった.他の外科領域と比較した脳外科医への苦情内容で有意に多かったのはケアや治療の内容,患者や家族とのコミュニケーション,医療や主治医へのアクセスに関する事柄であった(p<0.001).

【評価】

この研究によれば,71.6%の脳外科医は過去4年間に最低1回は患者苦情を受けており,特に若い脳外科医や脊椎脊髄専門医が患者苦情を受けやすかった.ラーニングカーブの途中にある若い外科医が患者苦情を受けやすいのは当然で,米国の外科医に対する医療訴訟は40歳台がピークとなっている(文献1).脊椎脊髄外科の多くは予定手術で,頭蓋内腫瘍や血管系の手術に比較して致死的あるいは重篤な合併症は少ないのにもかかわらず,患者苦情や損害賠償訴訟が多いこともよく知られている(文献2,参考サマリー1).
今回の研究に用いられたPARSデータベース(Patient Advocacy Reporting System)には米国の6万人以上の臨床医の患者苦情に関するデータが登録されており,著者らが所属するヴァンダービルト大学医療センター(VUMC)の患者アドボカシーセンター(Center for Patient and Professional Advocacy,CPPA)と連動して患者苦情を整理・比較し,医療者に還元することで患者苦情を減少させ,医療の質を高めようというプログラムに活用されている(文献3).著者らは,今回得られた情報は患者からの苦情を減らし,脳外科的ケア全体の質の向上につながる可能性があるという.

<監修者コメント>
アメリカにおける医療過誤訴訟の頻度,患者から苦情をうける頻度は日本よりもはるかに高いと思われるが,日米両国の臨床に携わった経験からすると,患者,社会背景の違いがその要因の一つではないかと思う.
この違いは論文には反映されにくいが,一般には日本と比してアメリカの患者のほうが手術を受けることに抵抗が少なく,手術を受ける決断がとても速い.語弊を恐れずに言うなら,基礎疾患や肥満度など患者個々の背景にかかわらず手術さえ受ければ症状が改善すると考えている人が非常に多い印象で,外来診療で手術治療が提示されなかった場合に医療者側へ不満を持つ人も少なくない.裏を返せば,手術治療(脊椎に限らず,変形性関節症に対する人工関節置換術なども含め)に対する期待度が非常に高く,結果が期待していたものと違っていたときの心理的反動も大きいことが予想される.当然,そこから苦情,訴訟へ発展することは想像に難くない.医療者,患者間の意思疎通が術前,術後ともに大切であることは洋の東西を問わず同じであるとは思うが,患者や社会背景までは変えられないため,医療者側の努力だけでこの問題を解決するのは容易ではないだろう.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

山口智

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