血管周囲腔の拡大は脳梗塞,認知機能低下,糖尿病と関連する:住民ベースコホートの死後脳MRIと剖検による検討

公開日:

2020年9月7日  

最終更新日:

2020年9月23日

Neuropathologic and Cognitive Correlates of Enlarged Perivascular Spaces in a Community-Based Cohort of Older Adults

Author:

Javierre-Petit C  et al.

Affiliation:

Department of Biomedical Engineering, Illinois Institute of Technology, Chicago, IL, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:32757750]

ジャーナル名:Stroke.
発行年月:2020 Sep
巻数:51(9)
開始ページ:2825

【背景】

血管周囲腔は組織間液と髄液の搬送や脳からの廃棄物の処理にかかわっている.本稿は高齢者の認知機能に関する米国の3つの長期追跡コホート4566名のうちから,死後(ex vivo)脳MRIと脳の剖検がなされた654名(死亡時平均90歳)を対象に,死後MRIにおける血管周囲腔の拡大(EPVS)の程度と背景疾患,認知機能,病理所見を比較検討したものである.より障害が強そうな側の大脳半球をホルマリンで固定した後,3TMR装置でT2強調矢状断像を撮像した.MRI上のEPVSの評価はその数を基にスケール0:0個,1:1~10個,2:11個以上,3:びまん性,とした.MRI撮像の後,その脳の病理学的評価を行った.

【結論】

全患者ではEPVSスケールは肉眼的な脳梗塞(オッヅ比OR:1.67)ならびに糖尿病(OR:1.73)と有意に相関した.認知障害が無いか軽度の患者では,EPVSスケールは肉眼的な脳梗塞(OR:1.74)ならびに顕微鏡的な脳梗塞(OR:1.79)と有意に相関した.全患者ではEPVSスケールは視空間認知能のより急速な低下,死亡段階での低レベルの意味記憶能と視空間認知能と有意に相関した.

【評価】

現在,血管周囲腔は脳組織間液と髄液の搬送,グリンパティックシステムとしての脳からのアミロイドβ蛋白などの老廃物の搬出,脳血液関門の保持など,脳の恒常性の維持のために極めて重要な役割を担っていることが示唆されている(文献1).血管周囲腔の拡大(EPVS)は高齢者では高頻度で認められ(文献2),脳卒中リスクや認知機能の低下との関係が報告されている.従来,EPVSのリスク因子としては年齢,男性,脳萎縮が指摘されてきた(文献3,4).しかし,これまでMRI上のEPVSと脳の病理像との直接の関係は十分に検討されていなかった.
本研究は,生活習慣病や認知機能等の生活歴/病歴が明らかな高齢者の長期追跡コホートのなかで死亡した患者の脳を取り出し,ホルマリン固定した後のex vivo MRIと同じ脳の病理像,そして病歴等を比較したものである.その結果,EPVSの数(負荷)は肉眼的な脳梗塞,顕微鏡的な脳梗塞,糖尿病の既往と相関することが明らかになった.また,EPVS負荷は認知機能のより早い低下と相関することも示された.なおこのコホートでは,EPVSの数(負荷)は年齢,性,教育年数,認知症の有無,高血圧の既往,心疾患,喫煙,血圧,APOE遺伝子型とは相関しなかった.
興味深いのはこれまで指摘されることがなかったEPVSの数(負荷)と糖尿病の相関である.動物実験では糖尿病によるグリンパティックシステムの障害が報告されているが(文献5,6),人では初めての報告である.
今後,糖尿病がEPVSをもたらすメカニズム,それによる微小血管病変や認知機能への影響等が明らかになることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳

メールで読みたい方はこちら

メルマガ登録する