血栓回収術の経大腿動脈アクセス困難例に対する総頚動脈直接穿刺法は安全か

公開日:

2020年9月15日  

最終更新日:

2020年9月28日

Direct carotid puncture for mechanical thrombectomy in acute ischemic stroke patients with prohibitive vascular access

Author:

Cord BJ  et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut

⇒ PubMedで読む[PMID:32796146]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2020 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収術は,標準治療として確立した(文献1).しかし,大血管の蛇行やType 3の大動脈弓などの理由で経大腿動脈的なカテーテル誘導が困難な症例が存在する.
Yale大学脳外科チームは,2015年からの3年間に血栓回収術を試みた352例のうち経大腿動脈アクセスが困難な37例を経験した.このうちそのまま血栓回収術を断念した17例と,総頚動脈直接穿刺法で血栓回収を行った20例とを比較し,この救済的手技の安全性について検討した.経大腿動脈からのアクセス困難37例は,アクセス可能な315例と比して,平均年齢が高く(82 vs. 71歳),女性が多かった(76 vs. 54%).

【結論】

経大腿動脈アクセス困難37例の中で,総頚動脈直接穿刺法を用いた20例(大腿動脈穿刺からの切り替え14例,最初から総頸動脈穿刺6例)では,84%でTICI 2b-3の再開通が得られ,血栓回収を断念した17例よりも,最終脳梗塞体積は小さく(11ml vs. 48ml),NIHSS scoreの改善が得られ(-4.0 vs. +2.9),発症3ヶ月後のmRSも良かった(調整後OR 5.2).総頚動脈直接穿刺法の合併症として,この方法でもアクセスが出来なかった例が1例,外科的治療を要さない頚部血腫形成が4例,血流障害を伴わない総頚動脈解離が2例,遅発性の致死的穿刺部出血が1例でみられた.

【評価】

筆者らは,救済的な治療手段としての総頚動脈直接穿刺法を,実践に値する安全かつ有効性の保たれた治療と結論づけている.
しかし,20例中1例(5%)で総頚動脈が確保出来ず,20例中1例(5%)で致死的合併症を来した手技が,果たして安全な治療手技と言って良いのかどうかには疑問が残る.本研究においても,アクセス困難例は平均年齢が82歳と高く,総頚動脈直接穿刺法を積極的に実践すべき症例なのかどうかは,全身状態や併存症を含め,症例毎に慎重に検討されるべきである.
また,本研究対象では血栓回収術を試みた全352例のうち33例(9.4%)が大腿動脈穿刺部から頭蓋内閉塞部位へのアクセスが出来なかったという結果であるが,日本の場合,それほど高頻度にアクセス不能であったという話は聞かない.人種や動脈硬化の程度が反映している可能性はあるが,技量的な差も推測される.また日本では,大腿動脈穿刺によるアクセスが出来ない場合に,上腕動脈への切り替えも行われているが,本稿ではこの手技に関する記載はない.さらに,このシリーズでは穿刺部の止血にアンギオシールを使用した症例が多いが,アンギオシールはアンカーの遠位塞栓の問題もあり,総頚動脈の止血にはむしろ禁忌という考え方もある.
総頚動脈直接穿刺法を行った殆どの症例(18例/20例)で挿管による気道確保がなされている点も重要で,超緊急的に実践されるべき血管内治療手技においても,医療安全的な配慮とそれを実現するだけのマンパワーが,少なくともこの臨床研究が実施されたYale New Haven Hospitalにおいては確保されているという点には注目すべきである.実際に米国の血栓回収術の約半数が全身麻酔下で行われている(文献2,参考サマリー1).これは,米国では人口10万人当たりの麻酔医の数が日本の約3倍で,慢性硬膜下血腫も100%が麻酔管理下,95%が挿管下で行われている(文献3,参考サマリー2)というマンパワーの充実を背景としている.
なお,頭頸部の血管内治療における大腿動脈経由ではない頸動脈直接穿刺でおこなう変法は,既に米国では頸動脈ステントにおいて実施されており(TCAR:Transcarotid Artery Revascularization),優れた治療成績が報告されている(文献4,参考サマリー3).もしかすると,米国の脳血管内治療医には大腿動脈穿刺に対するこだわりが薄れてきているのかも知れない.

執筆者: 

大庭秀雄   

監修者: 

岐浦禎展, 西牟田洋介

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