PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対する選択的な非優位側扁桃体レーザーアブレーションの効果:2例報告

公開日:

2020年10月13日  

Case Series: Unilateral Amygdala Ablation Ameliorates Post-Traumatic Stress Disorder Symptoms and Biomarkers

Author:

Bijanki KR  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Baylor College of Medicine, Houston, Texas, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:32259241]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2020 Sep
巻数:87(4)
開始ページ:796

【背景】

強烈な心的外傷体験をきっかけに起こるPTSD(心的外傷後ストレス障害)は,米国では人口の8%程度(文献1)が罹患するとされ,QOLに強い障害を与え,大きな社会的問題にもなっている.本論文は頭部傷後PTSDを有する患者で,その後遅発性に右側頭葉てんかんとなった患者に対する選択的海馬扁桃体レーザーアブレーションがPTSDに及ぼす影響を調べたものである.症例はベトナム戦争中の爆発による外傷に起因する30年以上のPTSD歴を有し14年前から右側頭葉てんかんを発症した白人男性と,一族に対する繰り返しの暴行に起因する19年のPTSD歴を有し3年前から右側頭葉てんかんを発症した黒人女性.

【結論】

レーザーアブレーションによって,2例ともけいれんの減少とともに,PTSD症状が大きく減弱した.症例2では過覚醒症状,恐怖増強,驚愕反応,恐怖惹起刺激に対するMRI反応,そして情動的な陳述記憶の改善が認められた.この観察研究の結果,右扁桃体がPTSDの永続化に関与し,選択的な海馬扁桃体切除が治療効果をもたらすことが示唆された.

【評価】

PTSDの有病率は社会的な所属集団によって異なるが,日本では1.1~1.6%が罹患するとされる(文献2).一方,米国では人口の8%程度で(文献1),軍関係人口では3~4割に達するとされ,その3~5割は心理療法や薬物療法に反応しない.本稿は,わずか2例のケースレポートであるが,PTSD患者の有病率やその社会的な影響を考慮すれば,インパクトの大きい重要な論文である.
扁桃体は恐怖の記憶や表出にとって重要な構造であり,従来から機能的脳イメージングではPTSDでは扁桃体の活動性の亢進が指摘されてきた(文献3,4).一方,米国退役軍人における一側の扁桃体を含む脳損傷は,PTSDに進行するのを防止するという研究もある(文献5).
今回の結果は,あくまでも一般的な保険医療である非優位側の難治性側頭葉てんかん患者に対する海馬扁桃体アブレーションが,合併したPTSDを大幅に改善したということであり,PTSDに対して扁桃体アブレーションが施されたわけではない.また,てんかん発作によってPTSD様症状が惹起されていた可能性,そしてアブレーションによるてんかん発作軽減に伴ってPTSD様症状が改善した可能性も残っている.
しかし,非優位側の扁桃体もPTSDの維持に重要な役割を果たしているというエビデンスが蓄積すれば,将来は側頭葉てんかんを伴わないPTSDに対する非優位側扁桃体アブレーションは有望な治療モダリティーとして発展する可能性がある.
一方,本2症例ではPTSD出現後に難治性てんかんが出現したわけだが,脳損傷後のPTSDが遅発性てんかんのリスク因子であるという報告もある(文献6).多数例での前向き研究で検証されなければならない.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

飯田幸治

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