手術で脳室壁を大きく開放した方が膠芽腫の予後は良い

公開日:

2020年12月1日  

Influence of wide opening of the lateral ventricle on survival for supratentorial glioblastoma patients with radiotherapy and concomitant temozolomide-based chemotherapy

Author:

Saito T  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tokyo Women’s Medical University, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:31705405]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2020 Dec
巻数:43(6)
開始ページ:1583

【背景】

膠芽腫の摘出手術において脳室開放を避けるべきであるという報告は多いが,脳室開放は神経(=腫瘍)幹細胞のニッチである脳室下帯の減量という側面も有している.東京女子医科大学のSaitoらは,2005~2018年に新規膠芽腫で標準補助療法(放射線+テモゾロミド)を受けた111例を対象に,初回手術での脳室開放が予後に与える影響を検討した.脳室開放の程度は手術後のMRIで評価し,開放なし(NVO:28例),開放部の径が小さい(<23.2 mm,VOS:41例),開放部の径が大きい(≧23.2 mm,VOW:42例)の3群に分けた.VOSとVOWのカットオフ設定にはCART解析を用いた.

【結論】

Log-rank検定では,年齢,KPS,切除程度,MGMTの状態,IDH-1変異,脳室開放程度がOSと相関していた.多変量解析では脳室開放程度は最も有意のOS寄与因子であった(VOS vs VOW;HR=3.674;p<0.0001).この結果は,側脳室の広い開放が脳室下帯からの神経幹細胞のより多量の除去と関係している可能性を示唆している.
なお,脳室開放なし(NVO)群のOSは小開放(VOS)群より長かった(p=0.0352).

【評価】

側脳室外側壁の脳室下帯はグリオーマ発生に関わる神経幹細胞が存在することが示されてきた(文献1,2,3).最近のメタアナリシスでは膠芽腫が脳室下帯に接していると生命予後が悪いことも示されてきた(文献4).また,これらの神経幹細胞は放射線,化学療法に対して抵抗性であることも報告されている.
一方,手術で脳室壁を開放することは,脳室下帯の神経幹細胞を多少とも除去することにつながるが,そのことが膠芽腫患者の生命予後に与える影響については明らかではなかった.

本研究の著者等は,脳室壁の開放の程度を手術後のMRIで評価し,最大径23.2 mm以上の開放(VOW)は独立した予後良好因子であることを明らかにした.
しかし,脳室壁を少ししか開けなかった群(VOS)の生命予後は全く開けなかった群(NVO)より悪かったというのは意外な結果であった(p=0.0352).これは何を意味しているのか.著者等は,脳室壁を全く開けなかったNVO群の大部分(26/28例)は,元々腫瘍が脳表に近く,脳室周囲に至っていなかったために,敢えて脳室を開放する必要がなかったのではないかと記載している.

腫瘍が脳室壁に達していない腫瘍は,脳室壁に達している腫瘍に比較して,脳室下帯組織におけるTERT,EGFR,PTEN,TP53などのドライバー遺伝子変異の発現が少ないことが報告されている(文献5).このような腫瘍はもともと予後が良く,脳室下帯の除去すなわち脳室壁の開放は予後因子にならないと想像される.
逆に,脳室を開放した腫瘍の大部分(71/83例)では腫瘍が脳室壁に接しており,このような腫瘍では,より大きな脳室開放操作によって,ドライバー遺伝子変異が豊富な脳室下帯組織を除去することが生命予後の改善につながったのだと推測される.

この結果を受けて著者等は,脳室壁に接するか脳室に近い膠芽腫では,腫瘍の全摘に加えて,広い脳室開放を推奨している.脳室開放による腫瘍の脳室播種は危惧されるところであるが,本シリーズでは脳室開放の程度と脳室播種に相関はなかった.最近の報告では脳室開放と術後水頭症の関係も否定されている(文献6).
本稿は大変に興味深い臨床研究であり,今後,より多数例の前向き研究で検証されるべきである.その際,摘出した脳室下帯の腫瘍部分のみならず非腫瘍部分の遺伝子解析,特にCD133等の幹細胞関連マーカーの発現の検討も併せて実施されるべきであろう.

執筆者: 

有田和徳