広頸破裂脳動脈瘤に対する動脈瘤リモデリング用メッシュ(Comaneci)を用いた一時的ステント補助下コイル塞栓術:118例の経験

公開日:

2020年12月15日  

最終更新日:

2020年12月15日

Comaneci-Assisted Coiling as a Treatment Option for Acutely Ruptured Wide Neck Cerebral Aneurysm: Case Series of 118 Patients

Author:

Sirakov A  et al.

Affiliation:

Radiology Department, UH St Ivan Rilski, Sofia, Bulgaria

⇒ PubMedで読む[PMID:32453823]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2020 May
巻数:87(6)
開始ページ:1148

【背景】

コマネチ・デバイスは完全可視化された動脈瘤頸リモデリング装置(メッシュ)である.バルーンアシストと違い母動脈の血流を温存させたままのコイリングが可能である.また一時的ステンティングの後は抜去するため,ステント補助下コイル塞栓術と異なり,側枝閉塞の可能性は少なく,長期にわたるDAPTを必要としない.2014年頃から欧州を中心に使用が進んでいる(文献1,2,3).
ブルガリア国イバン・リルスキ大学病院放射線科などのチームは広頸破裂脳動脈瘤118例(このうち105例が前方循環系)に対するコマネチ・デバイス補助下コイリングの成績を報告している.8例(6.8%)では2本のコマネチ・デバイスを同時に用いた.

【結論】

デバイス手技に関連した血栓塞栓性合併症は7例(5.9%),血管れん縮は5例(4.2%)に起きた.このうち症候性合併症は3例(2.5%)で,動脈瘤破裂や母動脈破裂はなかった.手技に関連した死亡はなかった.追跡血管撮影が可能であった102例では,3ヵ月と6ヵ月目の動脈瘤の完全な閉塞(RRクラスI)は81例(72.3%)と75例(66.9%)であった.6ヵ月までの再開通率は14.3%で,37例(33.0%)に再度の血管内治療(再度のコイルやフローダイバーター)が予定された.

【評価】

コマネチ・デバイス(ラピッド・メディカル社,Israel)は動脈瘤頸リモデリング装置(メッシュ)で,母動脈血流を維持したまま,マイクロカテーテルの安定した固定,コイルの逸脱防止が可能である.また,コイル留置後抜去されるため,長期間のDAPTの必要性がない.さらに柔らかい素材で横径を段階的に変化させ得るので母動脈内腔に対するコンプライアンスが良く,放射線不透過性のため視認性が高い.このデバイスは既にヨーロッパを中心に3万件以上の動脈瘤コイリングで使用された実績を有する.
本報告は破裂動脈瘤の急性期血管内治療におけるコマネチ・デバイス使用の最大のシリーズであるが,同デバイス補助下コイリングが安全で有効な治療手段であることを明らかにしている.本シリーズでは術中のヘパリン化以降は抗血栓剤内服は行っていない.
現在3タイプが使用可能であるが,最も細いコマネチ17は内腔0.017インチマイクロカテーテルに搭載出来,末梢性動脈瘤にも対応が可能になっている.

今後より長期の追跡で,バルーン補助下コイル塞栓術,ステント補助下コイル塞栓術,フローダイバーターステント術などとの成績の違いが明らかになることを期待したい.
コマネチ・デバイスは,米国では2019年5月にFDAの承認を得,2020年11月に市販後調査Success in Comaneci-assist Coils Embolization Surveillance Study(SUCCESS)が開始された.日本では,2020年12月現在,治験の予定はない.

このデバイスの名称はルーマニア生まれの体操選手で白い妖精と呼ばれたナディア・コマネチ(Nadia Comăneci)の名にちなんで命名されている.おそらくデバイスの柔軟さ,操作性が評価されてこの商品名が付与されたものと思われる.
ナディア・コマネチは1961年,ルーマニア生まれ.1976年モントリオール・オリンピックの女子体操で衝撃のデビュー.何回も満点演技(10.00)を披露し,体操観を一新させた.モントリオールでは点数掲示板の最高点が9.99までしか準備されていなかったため,彼女の演技が1.00と表示されたのは有名なエピソードである.1989年アメリカへ亡命.1999年,ABCニュースの「20世紀の重要な女性100人」に選ばれた.現在,米オクラホマ州で体操教室,チャリティー活動などで活躍している.日本ではビートたけし等の一発芸「コマネチ」が有名である.

【コメント】本論文では「temporary stent-assisted embolization」と記載されているが,コマネチは構造上はバルーン型メッシュであり,手技上は「balloon assist technique」となる.
このバルーン型メッシュのメリットは展開時にも母動脈血流を維持することができ,そのため展開したままコイル留置を続けることができる事である.また,展開した最大径が決まっており過拡張がないため母動脈の破裂がないことも挙げられる.
一方デメリットとして,術中破裂の際の一次止血はバルーンなら可能であるが,コマネチでは血流が維持されるため不可能なことが指摘出来る.メッシュ構造のため血栓塞栓性合併症の問題もあり,くも膜下出血急性期では虚血性合併症の問題が残る.またメッシュ部に硬い部分もあるようで,機械的な血管攣縮も危惧される.
本論文では,破裂脳動脈瘤118例に使用し,満足のいく成績を残したことが示されている.ただし,危惧された術中破裂はないが,虚血性合併症が5.9%・血管攣縮が4.2%となっている.したがって,コマネチはむしろDAPTが使用できる未破裂の脳動脈瘤に対するballoon assist techniqueに代わるものではないかと期待する.
県立広島病院 脳神経外科・脳血管内治療科 岐浦 禎展

執筆者: 

有田和徳