ADC値(標準マップとシフトマップ)が髄膜腫の硬さを予測する

公開日:

2021年1月10日  

最終更新日:

2021年1月10日

Predicting the consistency of intracranial meningiomas using apparent diffusion coefficient maps derived from preoperative diffusion-weighted imaging

Author:

Miyoshi K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Iwate Medical University School of Medicine, Morioka, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:33186907]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2020 Nov
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

腫瘍の硬さが術前にわかれば髄膜腫の手術戦略立案に際して大きなメリットとなるが,これまで精度が高くかつ臨床現場で利用可能な実用的手法はなかった.岩手医科大学のMiyoshiらは,術前の3TMRIにおけるADC(見かけ上の拡散係数)マップを使用して髄膜腫の硬さの予測を行った.対象は25例の髄膜腫で76個の関心領域(ROI)内の平均ADC値とROIに対応する摘出腫瘍組織の硬さを比較した.摘出組織の硬さは硬度計(durometer)を用いて測定した.ADCマップは標準像(b値:0と1000 sec/mm2)とシフト像(b値:200と1500 sec/mm2)を作成した.

【結論】

硬度計による腫瘍の硬さ(kPa値)と標準ADC値あるいはシフトADC値には有意の逆相関が認められた(p=−0.465,p<0.01とp=−0.490,p<0.01).ROC解析では,硬い腫瘍(硬度≧20.8 kPa)の診断におけるAUCは標準ADC値とシフトADC値とでは差はなかった(0.820と0.847).硬度とADC値の相関直線から導かれたカットオフ値を用いると,低い標準ADC値と低いシフトADC値の組み合わせによる硬い腫瘍の陽性的中率は89%,高い標準ADC値と高いシフトADC値の組み合わせによる柔らかい腫瘍(<20.8 kPa)の陽性的中率は81%であった.

【評価】

髄膜腫の硬さは様々で,非常に柔らかく吸引管で吸引できるくらいのもの,超音波吸引装置が必要なくらい硬いもの,超音波吸引装置も歯が立たず鋏での切断を繰り返さなければならないものまで様々である.柔らかい腫瘍なら腫瘍が大きくても小さな開頭での摘出が可能であるが,非常に硬い腫瘍の場合は大きな開頭で複数の術野からのアプローチが必要になる.したがって,術前に髄膜腫の硬さが正確に推定できれば,適切な手術戦略立案のための大きな支援となる.
これまで,髄膜腫の硬さとMRIパラメーターの相関に関してはT2値,DTIにおける拡散異方性,標準ADC値などが検討されてきたが,結果は必ずしも一致してはいなかった(文献1,2,3).
最近,臓器や腫瘍などの硬さの評価にMRエラストグラフィー(MRE)が用いられるようになってきた.胸壁の表面においたパッシブドライバーから振動を発生させ,目標の臓器に振動を伝える.その振動波の生体内の伝播をMRIで画像化する方法である.肝臓ではMREの結果と病理学的な肝線維化の程度は高い相関を示す.このMREを用いた脳腫瘍の鑑別や髄膜腫の硬さの予測に関する報告も登場している(文献4).本研究で得られた腫瘍の硬さ(kPa値)と標準ADC値の相関係数も既報のMRエラストグラフィーのそれにほぼ一致していた.ただし,MRエラストグラフィーには特殊な装置を必要とするということと腫瘍で圧迫を受けている脳へのバイブレーションの負の影響が否定できないという障碍がある.
一方,最近慢性肝疾患患者における肝臓の硬さの推定には標準ADC値(b値0~1000)よりもシフトADC値(200~1500)の方が有用であることが報告されてきた(文献5).これは拡散強調像においてb値(傾斜磁場を印加する強さ)が高い方が拡散がより強調されることと関係しているらしい.
本研究では,標準ADC値とシフトADC値の比較では硬い腫瘍の診断における感度,陽性的中率,陰性的中率に差はないが,特異度に関してはシフトADC値の方が有意に高かった(61% vs. 92%).
本研究では硬い腫瘍の閾値を硬度計での測定値20.8 kPaと定義し,その硬さの時のADC値をカットオフ値と定めている.これによれば,カットオフ値は標準ADCで0.880×10−3,シフトADCで0.680×10−3である.このカットオフ値で硬い腫瘍を予測すると標準ADCは71%,シフトADCは89%の陽性的中率であった.一方,標準ADCとシフトADCの組み合わせで予想(ともに閾値以下を示した腫瘍を硬い,ともに閾値以上を示した腫瘍を柔らかいと判断)すると,硬い腫瘍を89%,柔らかい腫瘍を81%の陽性的中率で診断し得た.
ADC値マップはルーチン検査で得られるMRI画像であるし,シフトADC値マップも2分あれば追加出来るので,大規模スタディーを待つまでもなく直ぐに実践出来る手法である.各臨床現場での検証結果を待ちたい.

執筆者: 

有田和徳