重症の単独性頭部外傷に対するトラネキサム酸の病院前投与は30日死亡率を高める

公開日:

2021年2月3日  

最終更新日:

2021年2月3日

Association Between Prehospital Tranexamic Acid Administration and Outcomes of Severe Traumatic Brain Injury

Author:

Bossers SM  et al.

Affiliation:

Department of Anesthesiology, Amsterdam University Medical Center, Amsterdam, the Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:33284310]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2020 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

2010年に発表されたCRASH-2トライアルでは,頭部以外の重症出血を伴う外傷患者において,受傷後3時間以内のトラネキサム酸(TXA)の投与が,全死亡率と出血死を低下させることが示されているが(文献1),外傷性脳損傷(TBI)患者でのベネフィットに関してはエビデンスが一貫していない.アムステルダム自由大学のBossersらは,同国の頭部外傷患者病院前レジストリー(BRAIN-PROTECT)研究のデータベースから,重症TBI(GCS:3~8)患者に対する病院前(ヘリ搬送中)のTXA投与と30日死亡率の関連を検討した.TXA投与群693例,非投与群1,134例.

【結論】

調整を行わない解析では,病院前TXA投与は,30日死亡率の増加と関連した(OR,1.34,p<.001).交絡因子を調整すると,TXA投与と死亡率の間に関連は存在しなかった.しかし,重症単独性TBIにおいてはなおTXA投与患者で相当の死亡増が認められ(OR,4.49,p=.005),欠測値の多重代入後も同様であった(OR,2.05,p=.007).

【評価】

2010年に発表のCRASH-2トライアルでは,頭部以外の重症出血を伴う外傷患者における受傷後3時間以内のTXAの投与の有用性が示され,同治療は欧州等の外傷ガイドラインではGrade 1Aとして推奨されている.その後病院前TXA投与の有効性も報告されている(文献2,3).しかし,頭部外傷患者に関してはTXAの効果は一定の評価を受けていない.
2016年に発表のCRASH-3トライアルは頭部外傷患者で,GCS12以下か,CTで何らかの頭蓋内出血があるが頭蓋外の大出血がない患者12,737例を対象としたRCTである.中等症・軽症患者(GCS:9~15)ではTXAの早期投与(<3時間)によって,頭部外傷関連死亡を有意に減少させたが,GCS:3~8の重症患者では減少させなかった(文献4).
2020年にカナダから報告された中等症あるいは重症のTBI患者(GCS:3~12)に対する病院前TXA投与のRCTの結果は,TXA投与は6ヵ月目機能予後良好を改善せず,28日目死亡も減少させなかった(文献5).
本論文はオランダにおける頭部外傷患者病院前レジストリーから病院前のTXA投与を受けた患者と投与を受けなかった患者を抽出した後方視的観察研究の結果であるが,この研究では重症単独性TBIでは30日死亡率はむしろTXA群で高いことが示された.その機序については著者らは,TXA投与によって過凝固状態になる可能性,炎症反応の変調,けいれんの誘発,TXA急速投与時の一時的な低血圧などの可能性を推測しているが,いずれも充分な根拠はない.
いずれにしても,重症TBIに関する限りは,急性期TXA投与は,これで少なくとも3つの研究で連続してその有効性が否定された事になる.重症の特に単独性TBI患者への急性期あるいは着院前TXAの投与は別のエビデンスが出てくるまでは差し控えられることになるであろう.

執筆者: 

有田和徳