慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈の塞栓術は有効か:米国多施設138例の検討から

公開日:

2021年3月16日  

最終更新日:

2021年3月22日

Middle Meningeal Artery Embolization for Chronic Subdural Hematoma: A Multi-Center Experience of 154 Consecutive Embolizations

Author:

Kan P  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Baylor College of Medicine, Houston, TX, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33026434]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Jan
巻数:88(2)
開始ページ:268

【背景】

再発を繰り返す慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術が新たな治療手技として登場しつつある.本研究は,本治療の安全性と有効性に関する全米15施設の前向き登録研究である.症例数は138例(平均年齢69.8歳,女性29%)で,塞栓術の総数は154回.15例は両側の塞栓術が施行された.抗血小板剤服用中が30.4%,抗凝固剤服用中が23.9%.入院時の血腫厚は中央値14 mm.2/3の症例では,以前に血腫除去が行われておらず,塞栓術が慢性硬膜下血腫に対する最初の治療(アップフロントMMAe)であった.

【結論】

塞栓術は46.1%が全身麻酔下,残りが麻酔科医によるMAC下で実施された.97.4%の症例で塞栓術が成功裡に行われた.塞栓材料はパーティクル70.2%,液体25.3%で両群の治療成績に差はなかった.最終追跡(平均94.9日)での血腫厚の中央値は4 mm(中央値71%の減少).70.8%の患者で画像上50%以上の改善が認められた(31.9%が臨床的に改善).追加治療が必要になったのは6.5%であった.

【評価】

再発を繰り返す慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術を初めて報告したのは香川県立中央病院のMandaiで,2000年のことである(文献1).それ以降,日本以外ではあまり関心の対象ではなかったが,最近急速に注目を集めており,これまでに20本近い報告と4本のメタアナリシスがあるが,その約半数は2020年に発表されている(文献2,3,4).
本研究は米国における多施設研究で,過去最大の138例という症例を基に慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓手術の安全性と画像上の効果を示した点で画期的である.塞栓術によって約70%の患者で画像上の改善が得られ,追加治療が必要であったのは9例(6.5%)に過ぎなかった.本研究で特筆すべきは,従来の報告では大部分の症例で穿頭血腫除去術後の再発症例に塞栓術が行われたのに対して,本研究の対象患者の2/3は血腫除去が行われていない症例であり,塞栓術が最初の治療手段(アップフロントMMAe)であった.
なお,19例(12.3%)が橈骨動脈経由でアクセスされている.
慢性硬膜下血腫では,DSA上中硬膜動脈由来の綿状陰影(cotton-like blush or network)が血腫被膜に分布していることが確認されており,塞栓術はこれらの血管網を閉塞させる効果がある.
一方,中硬膜動脈は眼動脈との吻合(meningoophthalmic connection)や顔面神経の神経栄養血管(vasa nervorum)との吻合を有する例が知られており,中硬膜動脈の主幹部の塞栓ではこれらの吻合枝を通して眼動脈や神経栄養血管の閉塞を起こすことがあり,結果として視力障害や顔面神経麻痺を来す可能性がある.本研究のシリーズではこうした吻合は8.5%で認められたが,カテーテルチップをそれより末梢まで送り込む事で,これらの合併症を避けることができている。わずか1例(0.7%)で術後顔面神経不全麻痺(drooping)を起こしたのみであった.また,塞栓物質として液体ではなく150μ以上のパーティクル(本シリーズでは70.2%で使用)を用いる事もこうした合併症を防ぐ手段である.
慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫除去術は,日本では脳外科医一人と看護師一人で行う比較的簡便な手術だが,欧米では全身麻酔か麻酔医による監視下麻酔管理(monitored anesthesia care:MAC)下での実施が原則であり,そのハードルは高い.したがって今後,慢性硬膜下血腫に対してはまず薬物療法(トラネキサム酸,デキサメサゾン等),続いて腕からの塞栓術,それでもだめなら穿頭血腫除去術という治療戦略が少なくとも欧米では登場する可能性がある.
現在,穿頭血腫除去術と中硬膜動脈塞栓術のRCT(NCT04095819,文献5)ならびに塞栓術も含めた慢性硬膜下血腫に対する各種治療の600例の前向き登録研究(NCT04065113,文献6)が米国で開始されており,いずれも2022年に結果が出るはずである.
既に日本でも臨床現場では再発を繰り返す慢性硬膜下血腫に対する塞栓術が普通に行われているらしい.今後我が国でも,前向き登録研究やRCTが行われる事,そして日本特有の治療方法でもある五苓散の併用に関する研究が行われることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳