WEBによるワイドネック動脈瘤の治療後2年間の追跡結果:欧州における3個の前向き研究138例から

公開日:

2021年3月16日  

最終更新日:

2021年12月17日

Aneurysm Treatment With Woven EndoBridge in the Cumulative Population of 3 Prospective, Multicenter Series: 2-Year Follow-Up

Author:

Pierot L  et al.

Affiliation:

Department of Neuroradiology, Hôpital Maison-Blanche, Université Reims-Champagne-Ardenne, Reims, France

⇒ PubMedで読む[PMID:31960052]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2020 Aug
巻数:87(2)
開始ページ:357

【背景】

WEBは細かい形状記憶合金の網で構成された樽状/球状の塞栓デバイスで,主としてワイドネックの分岐部動脈瘤に用いられており,既に欧米では1万例以上の使用実績がある.短期間での良好な治療成績が報告されているが(文献1,2,3,4),1年を超える長期成績の報告は少ない.本研究は既報の欧州での3つの研究(WEBCAST,WEBCAST-2,フランスでの観察研究)を統合して,治療後2年目の結果を明らかにしている.安全性評価対象は138例,有効性評価対象は121例.

【結論】

121例の動脈瘤の場所は中大脳動脈(53.7%),前交通動脈(20.7%),脳底動脈(14.0%),内頸動脈終末部(11.6%).平均動脈瘤径は7.4±2.0 mm(2.8~17.0).平均ネック径は5.1±1.4 mm,ネック径≧4 mmは84.3%.
治療後1年目から2年目には新たな治療関連有害事象はなかった.2年目における動脈瘤閉塞率は完全閉塞51.2%,動脈瘤頚部残存29.8%,動脈瘤残存19.0%で1年目と大差なく,全体の再治療率は2年間で9.3%であった.

【評価】

WEBは細かい形状記憶合金(ニチノール,ニチノール+プラチナ)の網で構成された樽状/球状の塞栓デバイスで,動脈瘤内に留置されると,瘤内への血流が減弱し,造影剤がうっ滞した後,動脈瘤先端部から血栓化が進むことで治療効果が得られている.WEBは瘤内にとどまり親動脈側に突出しないことから,ステントやフローダイバーターのように設置後長期にわたる抗血小板剤2剤投与(DAPT)の必要性がない.WEBによる広頸動脈瘤治療のアイデアは,ステントやダイバーターを用いたフローダイバージョンに対して,フローディスラプション(血流遮断)と呼ばれる.
このWEBデバイスをマイクロカテーテルに挿入してから瘤内にWEBを留置しデバイスを抜去するまでの時間は平均20分前後と報告されている.
WEBは当初重層メッシュ(WEB-DL)であったが,その後より細いマイクロカテーテルに搭載可能な単層メッシュ(樽型のWEB-SLと球状のWEB-SLS),さらに視認性を向上させたもの(WEB SL EVとWEB SLS EV)も開発されている.
フローディスラプションのアイデアによる動脈瘤の治療デバイスとしてはやはり樽型メッシュデバイスのARTISSE(メドトロニック社)やパラボラ状メッシュデバイスのContour Neurovascular System(CNS,Cerus Endovascular社)がある(文献5).
本WEBデバイスによる動脈瘤の治療の第一の特徴はその安全性であるとされる.先行する欧州や米国での研究でも短期(<1ヵ月)の治療関連の死亡は0%,合併症は0.7~3%と報告されており,本研究の対象患者でも,1年目までは,治療関連の合併症は1.4%(2/138)であり,治療関連死亡は後腹膜血腫の1例のみであった.さらに,治療後1年目から2年目までには新たな神経学的な有害事象は発生していない.このことは,フローダイバーターによる治療で治療1年以降にも血栓塞栓性合併症が生じていることとは対照的であったという.
本研究によればワイドネックの脳動脈瘤の完全閉塞率は51.2%,動脈瘤頚部残存率は29.8%であり,両者を併せたadequate occlusionの割合は81%と高かった.この数字を解釈するときには,①欧州では2010年にWEBの使用が始まっており,今回検討の対象となった患者群では,その半数で初期に発売され操作性が劣るWEB-DLが使用されていたこと,②術者も新規治療手技獲得のラーニングカーブ途上にあり,動脈瘤径よりも少し大きめのWEBを選ぶべきという知識(文献6)も普及していなかった頃の症例も含まれていることが考慮されなければならない.したがって,adequate occlusionの割合は今後さらに増加するはずだと著者らは推定している.
一方,コイルを用いた塞栓術との比較では,MAPS(Matrix and Platinum Science)トライアル(文献7)のうちワイドネック症例では,動脈瘤残存(aneurysm remnant)はコイルだけを用いた症例で42.4%,コイルとステントを用いた症例で37.1%であったが,本研究のそれは19.0%とはるかに低かった.
ちなみにWEBは米国(CA)のシークエント社が開発・製作してきたデバイスであるが,欧州では2010年から市販され急速に普及している.破裂も含めて7割以上の脳動脈瘤をWEBだけで治療する施設も登場してきている(文献6).一方シークエント社が本拠を置く米国FDAの承認は2019年と遅れた.シークエント社は2016年6月に日本のテルモ株式会社によって買収されているにもかかわらず,日本での導入は米国よりさらに遅れていたが,ようやく2020年12月に保険収載された.今後,技術力の高い日本の血管内治療医によるデバイスの選択基準,他のデバイス(コイル,ステント,バルーン)との併用,単体での長期成績などオリジナリティーの高いデータが出てくるのを期待したい.
このWEBやその他のフローディスラプションのアイデアに基づいた動脈瘤治療デバイスの概要,手技,臨床現場に与えた影響に関してはNeurosurgery 2020年の総説(文献5)やAJNR 2018年のエディトリアル(文献6)で詳述されている.これからWEBを迎えようとする日本の血管内治療医に一読を勧めたい.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

岐浦禎展