非コンセンサスTIAも典型的TIA同等の脳梗塞リスクがある:OXVASC研究より

公開日:

2021年3月22日  

最終更新日:

2021年3月23日

Diagnosis of non-consensus transient ischaemic attacks with focal, negative, and non-progressive symptoms: population-based validation by investigation and prognosis

Author:

Tuna MA and Rothwell PM  et al.

Affiliation:

Wolfson Centre for the Prevention of Stroke and Dementia, Nuffield Department of Clinical Neuroscience, University of Oxford, Oxford, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:33676629]

ジャーナル名:Lancet.
発行年月:2021 Mar
巻数:397(10277)
開始ページ:902

【背景】

TIAは脳および網膜の虚血により生じる一過性の局所神経学的機能障害が24時間以内に消失するものと定義される(文献1,2).NINDSIIIでは,TIAをその症状によって典型的TIA(運動障害,感覚障害,失語,半盲,一過性黒内障など)と非コンセンサスTIA(めまいのみ,失調のみ,構音障害のみ,複視のみなどの単一局所欠損症状)に二分してきた(文献3).本研究はオックスフォードシャーの住民ベース前向き登録研究であるOXVASCを基にした典型的TIA(1,287例)と非コンセンサスTIA(570例)の臨床像の比較である.研究期間は2002~2018年.追跡期間中央値は5.2年.

【結論】

非コンセンサスTIA群の90日間脳卒中リスクは典型的TIA群と同等で(10.6 vs. 11.6%,HR:0.87;p=.43),典型的TIA群中の一過性黒内障群(4.3%)よりも高かった(p=.042).しかし,非コンセンサスTIA群では典型的TIA群よりも発症当日の医療機関受診は有意に少なかった(59 vs. 75%:OR:0.47;p<.0001).心房細動,卵円孔開存,血管狭窄などの基礎疾患の有病率は2群間で差はなかったが,後方循環系の狭窄は非コンセンサスTIA群で多かった(OR 2.21,p<.0001).10年間の脳卒中リスクは2群間で差がなかった.

【評価】

オックスフォード大学のPeter Rothwell教授が率いるOXVASC研究は,英国オックスフォードシャーの約100名の家庭医を擁する9つのプライマリーケアに登録されている約9.3万人を対象とした脳卒中に関する住民ベース前向き登録研究である(文献4).本稿の研究では発端イベントの後,1,6ヵ月,1,5,10年目での面接による追跡とともに,OXVASCの一環として,再発事象の発生日ごとの確認や参加医療施設での診断コード等による検証が行われており,悉皆性と精度の高い研究となっている.
過去最高の570例という非コンセンサスTIA患者を対象としたこの前向き研究は,めまいのみ,失調のみ,構音障害のみ,複視のみといった一過性の単一局所神経症状を呈するいわゆる非コンセンサスTIA群も,7日間,90日間,10年間の脳卒中(脳梗塞)発生リスクは典型的TIA群と同様に高いことを明らかにした.この結果を受けて,彼らは非コンセンサスTIAも典型的TIAと同様に管理・治療されるべきであり,それにより急性期治療の対象となるTIAの患者は従来考えられたより50%増えるはずである,さらに今後のTIAの治療研究からも除外されるべきではないと結論している.
しかし,実際の患者の行動では,非コンセンサスTIA群は典型的TIA群よりも発症当日の医療機関受診は有意に少なく,その結果医療機関受診までの脳卒中リスクは典型的TIA群より高かったことも明らかにしている(8 vs. 5%;OR 1.77;p=.007).
一方,非コンセンサスTIA群,典型的TIA群ともにOXVASC関連医療機関受診後は,二次予防としての抗血栓剤の長期投与,血圧コントロール,高脂血症コントロールが行われており,その結果,非コンセンサスTIA群のうち抗血小板剤投与を受けた患者ではそうでない患者群にくらべて90日間の脳卒中罹患率を低く抑えられたことが示されている(1.3 vs. 9.8%,p<.0001).
既にRothwellらは,TIAが脳梗塞発症から先行する期間の検証をおこない,TIAが先行する期間は,17%が脳梗塞発症当日,9%が前日であり,7日以内は43%というデータを発表している(文献5).非コンセンサスTIAが典型的TIAと同等の脳梗塞リスクをはらんでいるとすれば,非コンセンサスTIAに対しても同等の緊急的対応が必要なことと同時に一般住民や医療者への啓蒙が必要なことが想像される.
我が国におけるTIAの前向き登録研究(PROMISE-TIA registry)では,TIA後90日間の脳梗塞発生率は6.0%でこのOXVASCにくらべれば大分低い(文献6).これには高血圧,糖尿病,狭窄性病変の罹患率の差,人種差などが関与している可能性がある.ちなみに最近発表されたフラミンガム研究でのTIA後90日間脳梗塞発生率は1986~1999年のイベントで11.1%であったのに対して,2000~2017年のイベントでは5.9%と改善している(文献7).
2018年にWHO(世界保健機関)から発表されたICD-11(国際疾病分類,改訂第11版)では,TIAを症状が24時間以内に完全に消失する局所の脳および網膜の虚血により生じる一過性の局所神経学的機能障害で,急性期脳梗塞巣を伴わないものと明記している(文献1,2).一方,本研究では,2009年以降には両群ともルーチンでMRIが実施されており,DWIでの梗塞巣陽性率は典型的TIA群で高かった(58 of 349[17%]vs. 21 of 228[9%];p=.013)と記載されている.これらDWIでの梗塞巣陽性症例はICD-11の定義に基づけばTIAとは区別して議論されるべきであるが,TIAが緊急の介入が必要な病態であることを考慮すれば,MRIの結果にかかわらず抗血栓剤投与を開始すべきであるという本論文の主旨は揺るがないものと思われる.
ただ,一番気になるのは単独めまい(vertigo only)で,本研究では90日間の脳梗塞発生率は13%に至っている.非コンセンサスTIAでの単独めまいの定義は突発性非再発性のvertigoで,外傷や頭位変換によって引きおこされたものではなく,耳痛,耳鳴,聴力低下を伴わないものであり,非特異的な動揺感や頭が軽い感じは除外されるべきとされている.これだけで本当に虚血性脳血管性のめまいとして直ちに抗血小板治療を開始していいのだろうか.やはり,MRIやMRA所見,ABCD2スコア(文献8)も参照しながらその要否を決定するというのが,今日の我が国における現実的な対処法のように思われる.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

神田直昭