低用量ヘパリンの持続注入がくも膜下出血後の遅発性神経脱落症状や脳梗塞を減少させる

公開日:

2021年3月22日  

最終更新日:

2021年3月23日

Low-Dose Intravenous Heparin Infusion After Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage is Associated With Decreased Risk of Delayed Neurological Deficit and Cerebral Infarction

Author:

Kole MJ  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Maryland School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33269390]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Feb
巻数:88(3)
開始ページ:523

【背景】

くも膜下出血は首尾良く再破裂防止の処置が実施されても,その後の血管れん縮によって遅発性神経脱落症状(DND)や脳梗塞に陥ることが多い.本研究は,低用量のヘパリン持続注入(LDIVH,12単位/kg/h)のDNDや脳梗塞に対する予防効果を検討したものである.対象は過去10年間でメリーランド医科大学でクリッピングやコイルによって動脈瘤が処置された556例で,233例には処置後12時間からLDIVHが,残りの323例には深部静脈血栓症予防のためにヘパリンの皮下注(SQH,5000単位を一日3回)が行われた.

【結論】

脳梗塞の非調整発生率は,LDIVHがSQHの半数であった(9 vs. 18%;P=.004).多変量解析ではSQH群に比較してLDIVHはDNDと脳梗塞の発生が低かった(オッズ比0.53[95% CI:0.33,0.85]と0.40[0.23,0.71]).傾向スコアを用いた逆確率重み付け(IPTW)後の比較でも同様の結果であった.出血性の合併症,ヘパリン誘発血小板減少症,深部静脈血栓症の発生頻度に差はなかった.くも膜下出血後の虚血性合併症予防におけるLDIVHに関して前向き臨床研究が行われるべきである.

【評価】

まず,気になるのはLDIVH(持続静脈内注射)とSQH(皮下注)をどのように分けたかという点であるが,著者らによればメリーランド医科大学では過去10年間は2人の脳血管担当脳外科指導医がコール当番になっていたが,専ら一人の指導医がLDIVHを好んでいたため,10年間という期間では疑似ランダムな治療割り当てが行われたのだという.
それでも患者背景が大きく異なる可能性があるので,傾向スコアを用いた逆確率重み付け(IPTW)を行った後に比較したが,やはりくも膜下出血後の虚血性イベントはLDIVH群で低かったという結論である.
ヘパリンは,良く知られた抗凝固,抗血小板作用以外に抗炎症作用を有している.この抗炎症作用はヘパリンの起炎因子との結合,白血球遊走阻止,活性酸素種(ROS)の中和などのメカニズムを介するとされる(文献1,2).齧歯類のくも膜下出血モデルにおいてヘパリン投与は浮腫,炎症,脱髄,経シナプス的アポトーシスを減少させることも報告されている(文献3,4).
本研究ではヘパリン投与量はSHQ群で15,000 U/日に対してLDIVH群で15,000~20,000 U/日と二群間で大きな違いはないのに,LDIVHの方がSQH群に比較して有意に遅発性虚血性イベントの発生が少ないのは何故か.未分画ヘパリンは5~35 kDの分子量のムコ多糖体である.このうち低分子ヘパリンはアンチトロンビン(AT)のみを阻害するのに対して,高分子ヘパリンはトロンビン(IIa)も阻害するのでより強い抗凝固作用を示すことになる.著者らは皮下投与では高分子分画は血管内への吸収が悪く,このことが持続静脈注射よりも遅発性虚血性イベントを抑制する力が弱いことの理由になっていると推測している.
本研究では深部静脈血栓症の頻度はLDIVH群とSQH群で変わらなかったので,LDIVHは遅発性虚血性イベントの抑制のみならず深部静脈血栓症の予防にも役立っていることになる.RCTで外部検証されるべき結果である.
わが国ではくも膜下出血術後の脳血管れん縮と脳虚血症状の改善目的でファスジル塩酸塩水和物(エリルⓇ)が使用されているが,今後LDIVHとの前向き比較試験が行われることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

井川房夫