機械的血栓除去は何歳まで有効か:日本の地域拠点病院からの報告

公開日:

2021年4月9日  

Predictors of Reperfusion and 90-day Functional Outcome After Mechanical Thrombectomy for Large Vessel Occlusion Strokes

Author:

Ohba H  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Japanese Red Cross Matsue Hospital, Matsue, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:33657521]

ジャーナル名:J Stroke Cerebrovasc Dis.
発行年月:2021 Feb
巻数:30(5)
開始ページ:105687

【背景】

脳主幹動脈閉塞に対する機械的血栓除去術は,今や標準治療となってきたが,高齢者に対しての有効性のエビデンスは充分ではない.人口の高齢化が進む山陰地方での脳卒中基幹医療センターである松江赤十字病院のOhbaらは,実臨床レベル(real world)でのデータでこの点の検討を試みた.対象は2015年から2020年に機械的血栓除去術を試みた連続111例.アクセス困難例やコントロール不良の併存症を抱えた症例を除外せずに解析した.平均年齢は77.2歳,アクセス困難例は8例(7.2%)であった.有効再開通(mTICI≧2b)および治療90日後の機能予後mRSをエンドポイントとした.

【結論】

多変量解析では,85歳以上(OR 0.191,p=.007),全身状態に影響を及ぼすような併存症の存在(OR 0.265,p=.016)が有効再開通が達成できないことの予測因子となった.90日後の機能予後に関しては,DWI-ASPECTS 6点以上であること(OR 4.650,p=0.005)が予後良好(mRS:0~2)の予測因子となった.全身状態に影響を及ぼすような併存症は,有意ではないが,機能予後不良(mRS≧3)と比較的強い相関がうかがわれた(OR 0.311,p=.059).

【評価】

これまでのところ80歳以上の高齢者の脳主幹動脈閉塞に対する機械的血栓除去術の有効性のエビデンスレベルは高くない.その理由は3点挙げられる.①メタ解析(HERMES)の対象となった7つのランダム化比較試験(MR CLEAN,ESCAPE,EXTEND-IA,SWIFT PRIME,REVASCAT,DAWN,DEFUSE 3)(文献1~7)の中で,患者登録に年齢制限を設けなかった4つの研究のうち,高齢者における有効性を層別化解析で証明できたものは2つのみであり,更に言えば,有効性を証明した研究においても80歳以上の登録数は非常に少ない.②高齢者症例に多いアクセス困難例は5つの研究において除外され,結果として登録された症例はMR CLEANからの1例のみである.③併存症によって元々全身状態が悪い症例もやはり高齢者症例に多いが,同様に除外されている.
80歳以上の登録数が少なかった点を補う形で,高齢者症例に対する機械的血栓除去術の有効性を実臨床(real world)の中で再度証明し直す臨床研究の流れもあるが,高齢者症例で散見されるアクセス困難例やコントロール不良の併存症を抱えた症例を除外せずに詳細に検討した研究報告は存在しない.
本研究では患者平均年齢77.2歳,85歳以上が30%,ASPECT<6が44%,発症前mRS:3~4が9%,急性心機能悪化を示す慢性心不全10%を含む重度の併存症が30%で,アクセス困難例も含めるという従来のRCTでは考えられないような圧倒的に不利な条件下で機械的血栓除去術を行っていることに先ず注目すべきである.にもかかわらず,TICI≧2bの達成が79.3%,90日mRS<3が45%という既報のRCTに比肩し得る優れた結果を出している.ちなみに本研究が実施された島根県における65歳以上の高齢者人口の割合(高齢化率)は34.3%で全国3位である.
機械的血栓除去術は80歳以上あるいは90歳以上でも有効であるとの報告が重ねられ,その適用には年齢の上限を設けないという流れもある.しかし,これまでの高齢者での報告は虚血コアの体積,アクセス,併存症など種々の条件を満たした限られた対象への施術結果のみが報告されている可能性が大きく(reporting bias),注意が必要である.
著者等は今回の後ろ向き研究の結果を受けて,85歳以上の高齢者,DWI-ASPECTの低い患者,重度の併存症を有する患者では,やはり機械的血栓除去術の適用は慎重に検討されなければならないと極めて穏当な結論を下している.しかし,日本の地域医療の現場では脳外科医2~3人だけで脳卒中救急に対応している施設も多い.そのような施設でも限られた時間の中で適切な適用判断が出来るように75歳あるいは80歳以上の高齢者向けのガイドラインが整備されるべきである.そのためにも本研究のようなreal worldでの地道な実践報告の積み重ねは極めて重要である.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

坂本 繁幸