鈍的外傷による頸部・脳血管損傷の予測因子:確率予測ノモグラムの作成

公開日:

2021年3月22日  

最終更新日:

2021年12月17日

Derivation and validation of a quantitative screening model for blunt cerebrovascular injury

Author:

Shibahashi K  et al.

Affiliation:

Tertiary Emergency Medical Center, Tokyo Metropolitan Bokutoh Hospital, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:33578388]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

鈍的外傷による脳血管損傷(BCVI)は稀ではあるが(文献1,2),早期治療されなければ重篤な症状を呈し,死亡率も高い(文献3,4,5).しかし,その早期発見は必ずしも容易ではない.本研究は我が国の272の救急病院が参加している日本外傷データバンク登録データを用いたBCVIリスク定量化の試みである.対象は2009年から9年間の鈍的外傷患者258,935例で,ランダムに129,468例を教育コホート,129,467例を検証コホートに分けた.BCVIは頭蓋内血管,頭蓋外の椎骨あるいは内頸動脈,総頸動脈,内頸静脈のいずれかの鈍的損傷とした.BCVIは全症例の0.3%に生じていた.

【結論】

教育コホートにおける多変量解析では①男性,②高エネルギー外傷,③着院時低血圧,④GCS<9,⑤顔面損傷,⑥頸への損傷,⑦脊椎損傷,⑧頭蓋底骨折,⑨頸椎骨折はBCVIの発生と相関した.⑩下肢の損傷,⑪天幕上硬膜下血腫,⑫腰椎骨折,⑬顔面軟部組織の損傷はBCVIと逆相関した.この13因子それぞれに重み付けを行いポイント化した計算図表(ノモグラム)を作成し,検証コホート(BCVIは0.3%に発生)を対象にBCVIの診断を行ったところ,そのROCカーブにおけるAUCは0.83で,内頸動脈,総頸動脈,椎骨動脈の損傷に限定すればそのAUCは0.89であった.

【評価】

本研究では,教育コホートではBCVIと相関する13の因子を発見し,その13因子の有り無しで因子毎に定められた得点(15~100ポイント)を加算し,その総計を確率スコア(Probability Score,0.001~0.38)に置き換えてBCVIの予測を行った.そのROCカーブにおけるAUCは教育コホート,検証コホートとも0.83であった.Youdenインデックスに基づいたBCVI確率スコアのカットオフ値は0.003で,このカットオフ値での感度は0.75,特異度は0.81であった.
本研究の対象とした日本外傷データバンク登録症例におけるBCVIの頻度は教育コホート,検証コホートともに0.3%と稀であった.損傷を受けた血管は頭蓋外椎骨動脈31%,頭蓋内椎骨動脈14%,頭蓋外頸(総頸あるいは内頸)動脈10%,頭蓋内内頸動脈10%,海綿静脈洞5%,中大脳動脈3%など多岐にわたっていた.しかし,多忙な救急現場でBCVIの全てが診断されている可能性は少なく,実数はより多いと思われる.
今回開発されたノモグラムを用いてBCVIの予想を行い,確率スコアが一定の閾値を超えた症例に頭蓋内外血管のスクリーニングを行えば,発見頻度が上がる可能性は十分に大きい.このBCVI予測確率スコア算出アプリを作成した上で,多施設の前向き研究で検証されるべきである.

執筆者: 

有田和徳