未破裂動脈瘤の破裂リスクは低く見積もられていないか:破裂動脈瘤に破裂予測スコア(PHASES, UIATS)をあてはめて判ったこと

公開日:

2021年4月16日  

Application of unruptured aneurysm scoring systems to a cohort of ruptured aneurysms: are we underestimating rupture risk?

Author:

Feghali J and Caplan JM  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Johns Hopkins Hospital, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33797630]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2021 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

いくつかの大規模前向き研究に基づいて,過去数年間で未破裂動脈瘤の破裂予測スコア(PHASES,UCAS)(文献1,2),増大予測スコア(ELAPSS)(文献3),治療決定サポートスコア(UIATS)(文献4)が開発されているが,その有効性が十分に検証されているわけではない.ジョンズホプキンズ大学脳外科のチームは過去17年間に受診した破裂動脈瘤患者992名のPHASESスコアを求め,そのうち最近6年間に受診した266名(スコア算出用変数が多すぎるので症例数を限った)のUIATSスコアを求めて,その有効性を検証した.

【結論】

992破裂動脈瘤のうち54%がPHASESスコア5(5年間破裂率1.3%)以下の低リスク群で,266破裂動脈瘤中では,UIATS推奨は26%が経過観察,36%が治療,38%が非確定であった.UIATSで経過観察と判断された群の方が治療あるいは非確定と判定された群よりも,HHグレード,WNFSグレード(p=.029),くも膜下出血関連合併症率(水頭症など,78 vs. 65%,p=.043),自宅外退院率(74 vs. 46%,p<.001)が高く,12~18ヵ月の機能予後不良(mRS>2)が多かった(68 vs. 51%,p=.014).

【評価】

これらの結果を受けて著者らは,未破裂動脈瘤に対する現在の破裂予測スコアはある群の患者の破裂リスクを低く評価し,より保存的管理(経過観察)に向かわせているのではないか.また経過観察推奨患者群では破裂後の転帰が治療推奨患者群より悪い可能性があると結論している.
破裂動脈瘤の半数がPHASESスコアで5年間の予測破裂率1.3~0.4%(年間破裂率では約0.25%以下)の群であったという事実にまず驚かされる.これは何か? 総数8,382名,29,166人・年の大規模前向き研究に基づいたはずのPHASESスコアリングでも正確な破裂の予測は立てられないということであれば,今後スコアリングシステムの大幅改変が必要なのかも知れない.特に多くの患者で見逃されている可能性がある増大(文献5)をどう予測しどうスコアリングするか,また不整な形状に対するより正確な評価(文献6)と更なる重み付け(文献7)は重要な課題と思われる.
経過観察推奨患者群で破裂後の転帰が悪かったのは,高齢,重篤な併存症などが経過観察推奨側のスコアに入っていることによる可能性が大きい.実際,経過観察推奨群の年齢は治療推奨群のそれより高かった(68.5 vs. 48.0歳).
今後,動脈瘤壁の造影所見,壁ずり応力(WSS)などの瘤内血流動態解析(CFD)も取り入れることによって未破裂動脈瘤破裂予測スコアはより精緻化する可能性はある.
少なくとも現段階では,この研究結果を受けて,UIATSスコアで非治療群,PHASESスコアで低リスク群と判定された患者でも,長期にわたる精緻な経過観察で増大や形状の変化を見逃さないようにすることは重要と思われる.
ただし,破裂した動脈瘤の解析結果から未破裂動脈瘤の破裂予測スコアや治療推奨スコアの妥当性を検討するという本研究の手法については根本的な批判もある.以下に島根県立中央病院脳外科井川房夫先生のコメントを紹介する.

<コメント>
本研究の最大の問題点は,破裂脳動脈瘤から未破裂脳動脈瘤の破裂リスクを論じている点である.①一般的に破裂の前後で動脈瘤の大きさや形の変化はないといわれているが,100%とは限らないこと,②少ないながら,発生して早期に破裂するタイプの動脈瘤もあることなどから,破裂脳動脈瘤のみによって未破裂脳動脈瘤の破裂を論じることは危険と考えられる.これらは,この問題に取り組んでいる多くの研究者が苦労している点でもある.
破裂動脈瘤の半数が5年間破裂率1.3~0.4%(年間破裂率では約0.25%以下)であっても,このように “低リスク” の未破裂脳動脈瘤の数が圧倒的に多ければ確率の問題で当然破裂動脈瘤に占める割合は大きくなるため,この事をもって一概に既存のスコアリング方法が “低リスク” 動脈瘤を不当に過小評価しているとは結論できない.
重要なのは,発見された未破裂脳動脈瘤は全体像のほんの一握りに過ぎないことを認識することである.予想破裂率が低く,経過観察となった場合でも,背景数が多ければある一定数の破裂は出てしまうことを本人及び家族に十分説明する必要がある(文献8).(井川房夫)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

井川房夫