特発性頭蓋内圧亢進症は急速に増加している:英ウェールズにおける住民ベース研究

公開日:

2021年4月16日  

Incidence, Prevalence and Healthcare Outcomes in Idiopathic Intracranial Hypertension: A Population Study

Author:

Miah L  et al.

Affiliation:

Swansea University Medical School, Swansea, Wales, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:33472926]

ジャーナル名:Neurology.
発行年月:2021 Jan
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)は明らかな原因なしに脳脊髄圧が上昇する病態(>250 mmH2O)で,良性頭蓋内圧亢進症,偽性脳腫瘍ともよばれ,頭痛,嘔気,視力低下を呈する(文献1).IIHは肥満との関係が強く示唆されているが住民レベルでの疫学データは少ない.本研究はスウォンジー医科大学の神経内科が実施した英ウェールズ(310万人)における住民保険データベースを利用した疫学研究で,2003年から2017年までの3500万人・年のデータを解析した.

【結論】

2017年におけるIIHの有病率は76/10万人(女性85%,患者平均年齢35歳),発生率は7.8/10万/年で,2003年のそれ(12/10万人と2.3/10万人/年)より有意に増加していた(p<.001).IIHの有病率は肥満ならびに貧困(WIMD重複剥奪指数)と相関していた.最貧困の20%に対する非貧困の20%における有病率の性/BMI調整後のオッズは0.65(0.55~0.76)であった.IIH患者の9%がシャント手術を受け,0.2%が肥満外科手術を受けた.IIH患者では対照人口よりも非予定病院受診が多かった(OR5.28,p<.001).

【評価】

この結果を受けて著者らは,IIHの発生率・有病率は人口におけるBMIの上昇と貧困率の増加に付随して上昇している.IIH患者が有している併有疾患,合併症,医療資源利用の増加を考慮すれば,この増加は医療専門家と政策立案者にとって大きな問題を提起していると結論している.ちなみに,ウェールズにおける肥満(BMI>30)の割合は2003年の29%から2017年の40%へと急速に増加している.
本研究と同様に英国や米国での住民ベース研究でも,近年IIHの発生数が増えていること,それが肥満患者の増加に付随していることが示されている(文献2,3).本研究では,特にBMI>30の女性ではIIHの有病率は180/10万人,発生率は23.5/10万/年で,標準体重(20<BMI<25)の女性のそれ(有病率13.2/10万人,発生率1.6/10万/年)の10倍以上となっている.また,女性では貧困の程度もIIH発生の寄与因子であった.これは貧困世帯において肥満者が多い事が寄与しているかも知れないが,BMIを調整しても,ロジスティック回帰モデルではやはり女性では貧困はIIHの発生と相関していた.
その理由に関しては明らかにされていないが,貧困者における蓄積脂肪の分布(内蔵型肥満)と関係しているのかも知れない(文献4).一方男性ではBMIと貧困を調整後もIIHの発生頻度は女性の1/4以下であった.この事から著者らは男性のIIHは女性とは異なった性質を持った病態であると主張する(文献5).
残念ながらIIHを発症した患者における体重減少はうまくいっておらず、本研究の対象患者では経過観察期間中でBMIはむしろ平均0.48増加しており,にもかかわらず減量手術を受けたのは0.2%にとどまっている.
本研究は著者らも述べているようにいくつかの問題点を孕んでいる.まず,IIHの診断(診断code)の増加が,IIHの真の増加ではなく,最近の本病態に対する認知度の向上や,デジタル眼底検査の普及(うっ血乳頭の早期発見)なども関与している可能性もある.また,貧困は個人レベルの話ではなくウェールズを1,897個のLSOAと呼ばれる平均1,600人規模の小地域調査区に分けて,各調査区毎のウェールズ重複剥奪指標(Welsh Index of Multiple Deprivation,WIMD)を,そこに住む住民に割り当てたものである.さらに,肥満以外のIIHの原因として知られているテトラサイクリンやビタミンAの摂取状況も調査されてはいない.
2017年のウェールズにおけるIIH発生率7.8/10万/年は,日本の脳腫瘍発生率3.5/10万/年の倍になる.しかし日本では,住民規模での疫学調査は未だないようであるものの, IIHがそんなに多いという印象はない.欧米ではBMI>30の肥満者の割合が急速に増加し,30%を超える国も多いのに日本では5%以下にとどまっていることがその要因かも知れない.
ただし,IIHではMRIなどの画像所見に乏しいものが多く,そのために脳外科医が患者の多彩な訴えを不定愁訴として切り捨てている可能性がある.疑わしい症例では眼窩部MRIの精査(視神経鞘の拡張,眼球背側の平坦化の発見)や眼底検査などを通してIIHの早期診断に結びつける必要性はある.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

川原 隆