CASにおける塞栓防止デバイス(EPD)の使用は本当に有効なのか:米国外科症例前向き登録データ(ACS-NSQIP)から

公開日:

2021年4月16日  

Carotid Stenting without Embolic Protection Increases Major Adverse Events: Analysis of the National Surgical Quality Improvement Program

Author:

Nazari P  et al.

Affiliation:

Departments of Neurological Surgery and Radiology, Northwestern Memorial Hospital, Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, Illinois, USA

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ジャーナル名:AJNR Am J Neuroradiol.
発行年月:2021 April
巻数:
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【背景】

末梢塞栓(脳塞栓)は頚動脈ステント術(CAS)における最も重大な合併症である.これを防ぐために米国脳卒中学会等のガイドラインではCAS術中の塞栓防止デバイス(EPD)の使用を示唆しているが(文献1),EPDの有効性についてはまだ議論がわかれている(文献2,3).シカゴ・ノースウェスタン大学のチームは米国外科学会の手術症例前向き登録データベース(ACS-NSQIP)を用いて,CASにおけるEPDの有用性について検討した.

【結論】

2011~2018年の間に1,200例にCASが実施され,そのうち23.8%はEPDを使用していなかった.EPDの使用率は経年的な変化は示さなかった.EPDを使用しない症例では,抗血小板剤の使用が少なく,緊急のCASが多かった.EPDを使用しない症例では治療後30日間の主要な心血管系有害事象(死亡,脳卒中,心不全,不整脈)と脳卒中が多かった.背景因子の差を傾向スコアマッチングで調整した2群(各261例)の比較でも,EPDを使用しない症例では主要な心血管系有害事象と脳卒中が有意に多かった(9.2 vs. 4.2%;OR=2.30と6.5 vs. 1.5%;OR=4.48).

【評価】

日本脳神経血管内治療学会による血管内治療前向き登録研究JR-NET3(2010~2014)では8,458例のCAS症例が登録されているが,99.5%にEPDが使用され,このうち遠位側フィルターは41.4%,遠位側バルーンは30.5%,近位側プロテクションは30.5%,MoMaは4.8%に使用されている(文献4).
一方,本研究で示された米国でのreal worldのデータでは,EPDを使用しない症例では使用した症例に対して主要な心血管系有害事象が2倍以上,脳卒中が4倍以上多いにもかかわらず,未だに約1/4の症例がEPDなしでのCASを受けている.これは何か.
米国でEPDの使用が保険償還上認められないかといえばそうではないようで,むしろEPDの使用はCASの償還の条件になっているところもあるらしい(文献5).
著者らは,最近発表されたRCTで,明確なエビデンスとしてEPDの使用のベネフィットが示されていないこと(文献6)がEPD不使用の理由となっているかも知れないと述べている.中にはCAS後のDWI高信号はむしろEPD群の方が多いという結果を示しているものもある(文献7).この原因としては遠位型EPDではデバイスの狭窄部通過時のイベント発生,血管壁の微小損傷,フィルターでの微小血栓形成,フィルターと血管内壁の間の隙間からの栓子の飛散などの可能性が示唆されている.そのほかにEPDを使用しない理由としては緊急手術患者では術前抗血小板剤投与が出来なかったとか適切なEPDデバイスが準備出来なかった可能性が挙げられる.
近年,CASに際した遠位側塞栓を防ぐ目的で頚部からのアプローチで総頸動脈を遮断して術中にリバースフローを作り出し,デブリを吸引回収して大腿静脈に返血するシステム(TCAR)が開発され,極めて低い脳卒中と死亡のリスクを示しており,その普及が急速に進んでいる(文献8).今後のレジストリーデータにもTCAR導入以降の臨床現場の実態が反映される可能性が大きい.今後数年間の変化に注目したい.

<コメント>
日本ではCASの保険承認前はdistal balloon protectionで行っていた(第1期)。2008年にPrecise stentが保険承認されたのと同時にdistal filter protectionとしてAngioguardも承認された。Angioguardの製品的な問題もあったと思うが、これを過信しすぎて幅広い適応でCASを行うようになった。その結果の市販後調査で術後の症候性虚血性合併症が、30日目で6.4%、1年で8.3%と惨憺たる成績であった(第2期)。そのためEPDに工夫を凝らして、虚血性合併症を少なくするようproximal balloonなどを併用するようになった(第3期)。Miyachiらは主要な心血管系有害事象(ほとんどが虚血性合併症)の頻度は第1期6.1%、第2期10.2%、第3期3.5%と報告している(文献9)。こうした経験を背景にして、我が国でのCASはほぼ全例でEPDを用いるようになっている。岐浦禎展

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

岐浦禎展

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