小児の高悪性度グリオーマに対する腫瘍融解性単純ヘルペスウィルス:第1相試験

公開日:

2021年4月27日  

最終更新日:

2021年4月27日

Oncolytic HSV-1 G207 Immunovirotherapy for Pediatric High-Grade Gliomas

Author:

Friedman GK  et al.

Affiliation:

Department of Pediatrics, University of Alabama at Birmingham, Birmingham, AL, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33838625]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2021 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

小児の高悪性度グリオーマはT細胞浸潤が少なく,免疫学的にはサイレントであり,OS中央値は5.6ヵ月に過ぎない(文献1,2).アラバマ大学のチームは腫瘍融解性単純ヘルペスウィルスG207を用いた治療法に関する第1相治験をおこなった.対象は7~18歳で天幕上の再発悪性グリオーマを有する12例(男女同数).腫瘍はすべてIDHワイルドで10例が膠芽腫,1例が退形成性星細胞腫(G3),1例が悪性グリオーマ(NOS).

【結論】

腫瘍を定位的に生検した後,3~4本のG207投与用カテーテルを挿入した.12例は4群に分けられ,第1,3群には10の7乗PFUのG207が,第2,4群には10の8乗PFUのG207が投与された.第3,4群には投与後24時間以内に5 Gyが照射された.OS中央値は12.2ヵ月,4例(36%)は最終追跡段階(18ヵ月後)で生存していた.唾液,結膜,血液にはG207は認められなかった.G207投与関連有害事象は20件のグレード1のみであった.組織学的には,G207投与後3~9ヵ月の腫瘍組織にはCD8陽性T細胞の急激な浸潤増加が認められた.

【評価】

腫瘍溶解性ウイルスとは,癌細胞に感染してこれを細胞死させるウイルスである.感染した癌細胞は融解し,感染性を持つ新たなウイルス粒子を放出して他の癌細胞に感染する.腫瘍溶解性ウイルスは腫瘍細胞を直接死に至らしめるのみならず,宿主の抗腫瘍免疫活性を上昇させる(以上,Wikipedia “腫瘍溶解性ウイルス” より引用).
G207はγ134.5二倍体遺伝子が除去され,UL39が不活化されているために正常細胞では増殖しないが,腫瘍細胞内での増殖能は維持される.ウイルスの増殖で腫瘍細胞が破壊されるとともに抗腫瘍性免疫反応が高まることが知られている.さらに局所への単回の放射線放射は動物実験でウイルスの増殖と拡散を促進するという.
この第1相試験では,G207投与に関連した有害事象は軽症で,体液や粘膜ではウイルスは証明されず(腫瘍以外での増殖の可能性は少なく),これまでに多くの治療が行われてきた大きな再発腫瘍(bi-perpendicular sum≧5.5 cm)にもかかわらず,G207投与によって強い反応を示し,OS中央値は12.2ヵ月(95% CI,8.0 to 16.4)であった.また4例は最終追跡段階でも生存していた.セロコンバージョンは10の8乗投与の1例に起こった.また,一般的に小児の悪性グリオーマは免疫学的にコールドであるが,投与後数ヵ月ではCD8陽性T細胞の活発な浸潤が認められた.これらの結果は2021年7月からスタートする2相試験(NCT04482933)の実施に向けて勇気づけられる結果であると著者らは言う.
悪性神経膠腫に対するウイルス治療としては,東大医科学研究所が本研究で使用されたG207の改変型であるヘルペスウィルスG47Δ(文献3)を用いた2相試験で高い治療効果と安全性を確認した.2020年12月28日に悪性神経膠腫を適応症とする製造販売承認申請を行っており(文献4),承認されれば脳腫瘍に対しては世界初のウイルス療法製品となる.
デューク大学からは,腫瘍溶解性ウイルスであるポリオ-ライノウィルス・キメラ(PVSRIPO)による再発膠芽腫の1b相治験の結果がNEJM2018年7月号に掲載されている(文献5).現在,成人に対する2相試験(NCT02986178)と小児に対する1b相試験(NCT03043391)が進行中である.
テキサス大学MD アンダーソン癌センターからは,複製可能型腫瘍溶解性アデノウイルスDelta-24-RGD(DNX-2401)の再発悪性グリオーマに対する1相試験の結果がJ Clin Oncol誌2018年5月に掲載されている(文献6).こちらは現在,免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)との併用の2相試験が進行中である(NCT02798406).
ウイルス療法製品は遺伝子組換え生物であるため,その臨床応用ではカルタヘナ議定書とそれに基づく法律「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」の遵守が必須であり臨床応用は決して簡単ではないが,今後10年くらいのうちにウイルス療法が悪性神経膠腫に対する主要な武器の1つになる可能性が出てきた.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

杉山一彦