ヤンセン/J&J社のCOVID-19ワクチンによる脳硬膜静脈洞血栓症:米国における最初の12例

公開日:

2021年5月4日  

最終更新日:

2021年5月4日

US Case Reports of Cerebral Venous Sinus Thrombosis With Thrombocytopenia After Ad26.COV2.S Vaccination, March 2 to April 21, 2021

Author:

See I  et al.

Affiliation:

Centers for Disease Control and Prevention COVID-19 Response Team, Atlanta, Georgia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33929487]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2021 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

チンパンジーの非増殖型アデノウイルスをベクターとしたアストラゼネカ社のコロナワクチンAZD1222では欧州で接種後の患者に硬膜静脈洞血栓症が報告され(文献1,2,3),2021年4月の段階で接種が中止されたり年齢制限が設けられた国が複数ある.一方,同じく非増殖型ヒトアデノウイルスをベクターとしたヤンセン/J&J社のAd26.COV2.Sは4月12日までに米国で約700万人に接種された.しかしその段階までに,血小板減少を伴った硬膜静脈洞血栓症が6例報告され,4月13日にその使用が停止された.本報告は米国CDCがまとめた同ワクチンによる静脈洞血栓症12例(18~60歳,全例白人女性)の報告である.

【結論】

7例が静脈洞血栓症のリスク因子を有していた(肥満6例,甲状腺機能低下1例,経口避妊薬の使用1例).これ以前にヘパリン投与を受けた者はいなかった.ワクチン接種から発症までは6~15日.11例は頭痛を初発症状とした(1例は背部痛が先行).12例中7例が脳出血を,8例が静脈洞以外の血栓症を伴った.血小板数底値は9,000~127,000.ELISA法によるヘパリンPF4複合体(HIT)に対する抗体は測定した11例全例で陽性であった.診断後6例にヘパリンが投与された.4月21日段階で3例が死亡,3例が引き続いてICU管理,2例がICU以外で入院中,4例が自宅退院であった.

【評価】

本研究は米国のCDCとFDAによって運営されているVAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)に報告されたヤンセン/J&J社製Ad26.COV2.S接種後の静脈洞血栓症の12例をまとめたものである.7例が脳出血を伴い,3例が死亡という厳しい転帰である.著者等はこの12例のケースレポートは米国におけるAd26.COV2.Sワクチン接種再開に向けた臨床的ガイダンスを提供し,血小板減少を伴う静脈洞血栓症との関係性について情報を提供するものであるとまとめている.
CDCはこの12例を含めてこれまで報告されたAd26.COV2.S接種後の静脈洞血栓症などの “血小板減少を伴う血栓症候群(TTS)” をレビューした.その結果,4月23日には同ワクチン接種の利益がリスクを上回ると判断し,接種の一時停止を解除し,18歳以上の成人に対する使用の暫定勧告を再確認した.またFDAはAd26.COV2.S接種とTTS発生の因果関係に関してはもっともらしい(plausible)と認めた上で,緊急使用許可(EUA)条項の中で,若年女性(18~49歳)のまれな血栓性事象について注意を喚起した.
先行してTTSが報告されていたアストラゼネカ社のワクチン接種では,TTS発症患者にヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の原因となる抗HIT抗体が出来ていることが確認されている.HITと同様,この抗体は血小板表面のFc受容体を介して血小板が活性化する機序(自己免疫性HIT)が推定されている.またこの活性化は,高濃度ヘパリン,Fc受容体ブロッキング抗体,免疫グロブリンの投与によって阻害されたという(文献4).文献4の著者等は,この病態をvaccine induced immune thrombotic thrombocytopeniaワクチン誘導性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)と呼ぶことを提唱している.
HITはヘパリン投与中か投与された患者のうち0.1~1%に発生するまれな病態で,その真の原因は不明であるが,投与されたヘパリンが血小板第4因子(PF4)と結合しヘパリンPF4複合体(HIT)が作られる.その結果これに対する抗HIT抗体が産生され,血小板表面のFc受容体を介して血小板が活性化する.
本論文の12例の臨床経過や検査結果は欧州で報告されたアストラゼネカ社のワクチン接種後に発生した静脈洞血栓症にほぼ一致していた.12例中8例が39歳以下の女性であったことや患者にはそれまで血栓形成傾向が認められなかったことも類似していた。
著者らはヤンセン/J&J社Ad26.COV2.Sワクチン接種後に生じた血小板減少性血栓症にはアストラゼネカ社のワクチンと同様に自己免疫性HITと類似の機序が関与していると推測している.
典型的なHITでは外因性のヘパリンが抗HIT抗体形成の引き金になるが,自己免疫性HITではポリリン酸塩やコンドロイチン硫酸などの内因性多荷陰イオンがPF4に対する抗体形成の引き金になっていると考えられている.
現段階では,アストラゼネカ社のワクチンでもヤンセン/J&J社のワクチンでも,どの成分がヘパリンや内因性多荷陰イオンの役割を果たしているかは不明である.
アデノウイルスをベクターとしたコロナワクチンによる静脈洞血栓症は他の原因によるものと比較して症状には差がなく,初発症状は頭痛が一番多い.しかし,頭痛には消長があり時に市販薬で改善することも多いので,アデノウイルスベクターワクチン接種後の頭痛には注意が必要である.
わが国ではアストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチンを2021年5月中に承認し,年内に1億2,000万回分(6,000万人分)の供給を受ける予定である.少なくとも2021年秋頃までには同ワクチンの接種がわが国でも開始されると思われる.ワクチン接種後の静脈洞血栓症を含めたTTSに関する医療関係者への啓蒙は早めに始めておきたいところである.
一方,少なくとも2021年4月21日段階までは2種類のmRNA COVID-19ワクチン(ファイザー/ビオンテック社,モデルナ社)では未だTTSは報告されていない.

執筆者: 

有田和徳