80歳以上の高齢者への髄膜腫手術は許容されるのか? 7報告308症例のシステマティックレビュー

公開日:

2021年5月22日  

最終更新日:

2021年5月25日

Is surgery justified for 80-year-old or older intracranial meningioma patients? A systematic review

Author:

Rautalin I  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Helsinki and Helsinki, University Hospital, Helsinki, Finland

⇒ PubMedで読む[PMID:32248508]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2021 Apr
巻数:44(2)
開始ページ:1061

【背景】

髄膜腫を有する高齢者の発見は急速に増加しているが,そのような高齢者のなかでも80歳以上の超高齢者に対する手術は正当化されるのか?ヘルシンキ大学脳外科は過去に報告された7つの後方視研究のシステマティックレビューを行った.対象は手術が行われた308症例(80~90歳),男性の割合は21.6~47.1%であった.おそらく選択バイアスのためASAクラスは報告毎に差が大きく2報では約8割がクラス1~2であったのに対して,5報では過半がクラス3~4であった.運動機能障害(27~65%;3報),痙攣(16~43%;4報),精神症状(51~59%;3報)が主要な手術理由であった.

【結論】

シンプソンG1~2(全摘出)は72~100%で達成された.1ヵ月と1年死亡の頻度は0~23.5%と9.4~27.3%であった.手術後,41.2~86.5%の患者でKPSが改善した.いくつかの報告で,多変量解析で術前のKPSの低下(≦80),強い腫瘍周囲浮腫,男性,危険な手術部位が,単変量解析では併発症ASA>3が手術後死亡と相関していた.
CCHならびにCASPによる研究の質の解析では,その後方視的な研究デザイン,髄膜腫の特徴に関する評価の制約,転帰における評価の制約の問題が指摘され,対象の全ての研究が高品質とは判断されなかった.

【評価】

高齢者の髄膜腫の手術をどうするかという問題は人口の高齢化とともに重要なテーマとなりつつある.日本からはDPCデータをもとに,年齢は手術後のバーセルインデックスの悪化と相関していた(非高齢[65歳未満]6.3%,前期高齢[65~74歳]10.6%,高齢[75歳以上]19.4%)が,術後の出血や梗塞などの全脳卒中(2.3~3.3%)や入院中全死亡(0.1~0.4%)との相関はなかったという報告がなされている(文献1).ドイツMünster大学のチームは,自験の500例の髄膜腫手術例を高齢患者群(年齢≧65歳,平均71歳,n=162)と若年者群(年齢<65歳,平均51歳,n=338)に別けて比較した.その結果,手術後3ヵ月の死亡率は高齢者群で高く(7 vs. 1%;p<0.001),生存期間(OS)中央値は高齢者群で若年者群より短かった(HR 4.9,95% CI 2.75〜8.74;p<0.001).しかし,高齢者群におけるOS中央値は一般人口対照群との間では差はなかったという興味深いデータを報告している(文献2).OS中央値が一般人口と差がないのは,手術がより健康な患者を対象とし,深刻な合併症を有する患者を避けたため(selection bias)かもしれない.
その他,いくつかの登録研究は,超高齢者(≧80)の髄膜腫手術では,80歳未満に比較して手術リスクは15倍にも高くなることを示している(文献3,4,5).
本論文は,80歳以上に的を絞って過去の7報告に対するシステマティックレビューを行っている.この結果,著者らは80歳以上の高齢は手術の禁忌肢ではなく,慎重な患者選択プロセスを経た後であれば手術療法は相対に安全な治療法ということが出来ると結論している.
残念ながら本システマティックレビューでは,おそらくは術前評価項目,手術適応,手術後評価項目などの不均質性のためか,メタアナリシスは出来ていない.実際に,併発症の程度を反映するASAグレードに関しては,クラス3,4の割合はかなり幅広い(17~85%).手術症例選択基準が報告毎(治療された髄膜腫シリーズ毎)で,大きく異なっていることが予測出来る.
今後適切な対照を設定した前向き研究で,併発症の重篤さ,フレイルティー,KPS,発生部位,腫瘍の大きさ,腫瘍周囲浮腫,腫瘍のMRIやCTなど画像上の性状などをポイント化して手術適応を検討することが必要になる(文献6).

<コメント>
以前より,80歳以上の髄膜腫に対する手術成績の論文は散見され,80歳以上の高齢者でも髄膜腫の手術は比較的安全であるという報告がされていた.本論文のシステマティックレビューでも,その結論が再確認された.高齢者では,chronological ageとbiological ageの個人差が大きく,その評価方法が重要で,近年様々な報告がある(文献6).我々は高齢者髄膜腫手術において,chronological ageは術後合併症リスクにはなるが,死亡リスクにはならず比較的安全であることを報告した(文献1).ただし,手術適応,手術方法,術前評価には高齢を考慮した選択バイアスがある事が予想され,それらバイアスを除いた解析が望まれる.今後は,高齢者には,根治手術以外の放射線治療,内視鏡的非根治手術等の選択肢の標準化も望まれる.超高齢化社会の先頭を行く日本で高齢者臨床サイエンスのエビデンス構築が期待される.(井川房夫)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

井川房夫