椎骨脳底動脈による三叉神経痛の26手術例:椎骨脳底動脈と完全に分離しなくても良い

公開日:

2021年5月23日  

最終更新日:

2021年5月22日

Microvascular decompression for trigeminal neuralgia attributable to the vertebrobasilar artery: decompression technique and significance of separation from the nerve root

Author:

Inoue T  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Subarukai Koto Kinen Hospital, Shiga, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:32901396]

ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2021 Apr
巻数:163(4)
開始ページ:1037

【背景】

三叉神経痛の原因血管は上小脳動脈が多いが,2~8%の頻度で椎骨脳底動脈(VBA)が関与する(文献1,2).その多くは強い動脈硬化を有しており,狭い術野とも相まって,その移動は困難で,合併症も多い(文献3,4).湖東記念病院のInoueらは,自験の三叉神経痛に対する神経血管減圧術585症例からVBAが原因の26例(全体の4.4%,男女同数,平均68歳,左が17例)を抽出してその手術成績を示し,彼らの行っているテフロンロール(TR)テクニックを紹介している.TRはテフロンシートを硬く巻いてロールにしその中央を糸で縛ったもので,脳幹とVBAの間に縦に挿入した.術後追跡期間中央値は47ヵ月.

【結論】

VBAと共に圧迫に関与した血管はAICAが最も多かった(69%).手術直後で,13例では三叉神経がVBAと完全に分離出来たが(分離群),他の13例は軽度の接触が残った(接触群).26例全例で手術直後に痛みは消失し,1例のみが8年後に再発した.術後顔面感覚低下は6例,ドライアイは1例,滑車神経障害による複視は1例,聴力低下は2例,顔面筋力低下は2例,小脳失調は2例で認められた.追跡期間最後まで症状が持続したのは,顔面感覚低下5例,ドライアイ1例,聴力低下2例,小脳失調1例であった.分離群と接触群間では手術後の疼痛寛解率や術後合併症の出現率に差はなかった.

【評価】

椎骨脳底動脈の圧迫による三叉神経痛に対する神経減圧手術は,動脈硬化のため圧迫動脈が太くかつ硬いことによって,狭い術野での移動が困難なことが多い.著者等はテフロンロールを用いることで安全な範囲で椎骨脳底動脈をREZから移動しているが,半数の13例では軽度の接触が残っている.にもかかわらず,この13例でも手術後全例で疼痛は消失し,1例だけが8年後に再発している.著者等は,この結果を受けて,椎骨脳底動脈の移動によって,一旦三叉神経の緊張がとれれば,それ以上の完全分離を追求する操作は不要であろうと述べている.
重要な提案である.本シリーズ26例のうち永続的で重篤な合併症は2例の聴力低下,1例の小脳失調のみである.優れた治療成績とこの安全性は,テフロンロールの使用と,椎骨脳底動脈と三叉神経との完全分離が必要ではないかも知れないという経験知から生み出された手術戦略に基づいているものと思われる.一方,実際の手術に当たって三叉神経の緊張の消失をどう判断するかは難しいところである.こうした点も含めてさらに症例を重ねて検証していただきたい.

<著者コメント>
VBAによる三叉神経痛では,血管圧迫により神経根が大きく変位している.しかし,罹病期間は上小脳動脈などの細い血管の場合と大差はない.数年でこのような強い圧迫,神経変位を生じたとは考えにくく,血管圧迫による神経変位が限界に達した時点で,三叉神経痛を発症したと思われる.したがって,わずかな減圧操作でも十分な効果が得られる可能性が高く,リスクを侵してまで血管接触の完全解除にこだわる必要はない.重篤な合併症をきたす可能性のある手術であり,安全,単純,確実な手技が必要である.(井上卓郎)

執筆者: 

有田和徳