腕からの脳血管内治療:連続760件の経験

公開日:

2021年5月23日  

最終更新日:

2021年5月23日

Lessons Learned After 760 Neurointerventions via the Upper Extremity Vasculature: Pearls and Pitfalls

Author:

Sweid A  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Thomas Jefferson University Hospital, Philadelphia, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33862629]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 May
巻数:88(6)
開始ページ:E510

【背景】

心臓血管内治療に続いて(文献1,2,3),脳血管内治療においても橈骨動脈アクセスが導入されつつある(文献4,5).
トーマス・ジェファーソン大学(PA)の脳血管内治療専門医4名のうち1名は2018年4月から診断を含む全ての脳血管内手技を腕からのアクセスで実施してきた.本報告は,この術者が過去20ヵ月に経上肢的アクセスで行った連続760件(614例,平均60歳)の脳血管内手技を解析したものである.
500件(66%)が診断,260件(34%)が血管内治療目的であった.

【結論】

260件の治療の内訳は動脈瘤115件,血栓除去52件,頚動脈ステント28件,AVM/AVF/CCF 33件,その他32件であった.97%が右腕からで,アクセス動脈は橈骨動脈544件,遠位橈骨動脈が211件(28%),尺骨動脈4件,上腕動脈1件であった.5Frシースが73%,5Frシースが24%に挿入された.4.7%(36件)で大腿動脈穿刺に切り替えた.治療手技上の成功は94%で得られた.動脈瘤の閉塞率はmRRO I/IIが92%,血栓除去はTICI>2bが77%であった.橈骨動脈れん縮などアクセスに伴う合併症は7件発生した.

【評価】

従来,脳血管内治療は大部分が大腿動脈経由で施行されてきた.しかし重度の下肢閉塞性動脈硬化症,強い動脈硬化により拡張蛇行した大動脈,慢性大動脈解離,大動脈瘤を有する患者では大腿動脈経由では目的とする血管へのアクセスが困難であり,時に危険を伴うことがある.かつては右上腕動脈あるいは右橈骨動脈からのアクセスはこのような患者でやむなく採用される方法であった.
一方近年,術後安静時間の短縮,局所血腫や仮性動脈瘤などの合併症の軽減というメリットが注目され,冠動脈造影検査や冠状動脈インターベンション(PCI)において上肢動脈のなかでも橈骨動脈アクセスが普及しつつある.日本の二次医療施設においても冠動脈造影検査の9割以上が橈骨動脈(約3割が遠位)経由で行われ,PCIの8割以上が橈骨動脈(約1割が遠位)経由で行われている.
最近では脳血管内治療においても橈骨動脈経由を採用する施設/術者が増えている.特に右椎骨動脈へのアプローチが必要な患者,いわゆる “Bovineアーチ” に伴う左側病変,タイプII/Ⅲアーチに伴う右側病変では大腿動脈経由よりもより直接的で簡便なルートと考えられている(文献6).また,抗凝固薬使用中の患者,tPA投与後の患者,病的肥満の患者でも橈骨動脈アクセスが選択されることが多い.既に,頚動脈ステントに際してのアクセスに関して大腿動脈と橈骨動脈を比較したRCT(260例)が行われているが,主要な有害事象や在院日数には差がなかった(文献7).
本報告は脳血管内手技(治療と診断を含む)におけるアクセス血管を上肢動脈ファーストとした連続760件(脳血管治療260件を含む)の解析であるが,治療手技の成功率は94%と高く,大腿動脈穿刺への変更を余儀なくされたのは約5%に過ぎなかった.また,診断血管造影にかかる透視時間の長さをパラメーターとした場合,7人のレジデントがこの手技を習熟するのに必要な経験数は14回であった.
本シリーズの脳血管内治療260件のうち247件は通常の橈骨動脈経由で,12件(4.7%)はさらに末梢の遠位側橈骨動脈経由で実施されている.遠位側橈骨動脈アクセスは,拇指の根元のいわゆる “かぎたばこ窩(橈骨小窩)” で橈骨動脈を穿刺する手技で,PCIにおいては患者負担がより少なく橈骨動脈閉塞が少ない方法として導入が始まっている(文献8).さらにこの遠位側橈骨動脈アクセスではアプローチ側上肢の回外が不要であるため,患者は苦痛の少ない自然な姿勢で治療を受けることが出来る.
本論文では血管内治療実施例で遠位側橈骨動脈アクセスと通常の橈骨動脈アクセスを比較しているが,合併症や大腿動脈への切り替えの割合に差はなかったという.
現在,橈骨動脈専用の親水性シースが開発されているが,さらなる器材の改良や技術の向上が続くと思われる.日本でも経橈骨動脈脳血管内治療研究会(TRN研究会)が2020年に発足しており,今後橈骨動脈経由の脳血管内治療は増える可能性がある.
一方,上肢動脈からのアクセスでは,橈骨動脈のれん縮や閉塞,上腕動脈穿刺では尺骨神経や正中神経障害などのリスクが指摘されている.またタイプI大動脈弓ではガイディングシースの左総頸動脈の至適位置への導入が困難なことも報告されている.さらにAllenテスト陽性の場合は橈骨動脈穿刺は禁忌となるのは言うまでもない.広頚で複雑な形状の動脈瘤やハイリスクの内頸動脈起始部狭窄ではプロテクションデバイスなど複数の器材の挿入が必要となるが,それでもなお橈骨動脈アクセスが安全で有効な治療手技であるのか.まだまだ経験の共有を通した技術の錬磨が必要と思われる.
本論文の考察では橈骨動脈経由の脳血管内手技に関する幅広いトピックスに関して包括的な文献レビューが行われ,いくつかのピットホールに関しても対処方法が記載されている.これから橈骨動脈アプローチを開始しようとする血管内治療医には必読の論文である.

<コメント>
脳血管内治療において,治療戦略として2本以上のカテーテルを必要としないのであれば,adjunctive techniqueを要する場合でも,6Frシースまたは4Frガイディングシースで大部分が,8Frシースまたは6Frガイディングシースであればすべての症例で可能である.一方,橈骨動脈穿刺は,上腕動脈穿刺に比べ,周囲の支持組織により治療後の圧迫止血が容易であるが,日本人の橈骨動脈径は平均2.5 mm程度とされ,6Frシース(外径2.7 mm)未満となるため,とくに大口径(7,8Fr)シース挿入によるれん縮,内膜損傷の可能性が気になるところである.(坂本繁幸)

<コメント>
元来,血管内治療は侵襲の少なさを売りにした治療であるため,今後橈骨動脈アクセスが主流になる可能性は十分にある.現に循環器内科の分野では,遠位橈骨動脈を含めた橈骨動脈アクセスが積極的に行われており,脳血管内領域においても既に診断・治療を行っているもしくは今後導入を検討している施設も多い.この論文においては,260例の治療と500例の診断では,目的をほぼ達し,安全性もおよそ担保できていると思われる.ただし脳血管内治療における橈骨動脈アクセスでは,穿刺困難例,橈骨動脈の解剖学的バリエーションの問題,スパスムなどはもちろんであるが,大動脈弓から頸部頭蓋内へのアクセスの問題,さらに大口径のシースを留置できない(特にproximal flow controlを必要とする場合[血栓回収や破裂しやすい動脈瘤など]やFlow Diverterなど複雑もしくは困難症例など)というデバイス問題が残されている.さらにはこの論文でも述べられているように習熟には一定の経験数が必要である.また気になったのは,血管内治療群では9.2%が大腿動脈穿刺に変更になった点で,未だ橈骨動脈ファーストで何でも出来るとは言えない現状にあるようだ.(西牟田洋介)

執筆者: 

有田和徳