グリオーマ患者におけるナビゲーションガイド下反復経頭蓋磁気刺激(nrTMS)による言語野マッピングの精度

公開日:

2021年5月31日  

最終更新日:

2021年5月31日

Navigated repetitive transcranial magnetic stimulation as preoperative assessment in patients with brain tumors

Author:

Motomura K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Nagoya University School of Medicine, Nagoya, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:32493943]

ジャーナル名:Sci Rep.
発行年月:2020 Jun
巻数:10(1)
開始ページ:9044

【背景】

本研究は名古屋大学のMotomuraらによるナビゲーションガイド下反復経頭蓋磁気刺激(nrTMS)による言語野マッピングの精度に関する前向き研究である.言語野マッピングの精度に影響する因子を,覚醒下開頭手術下での直接皮質刺激(DCS)の結果を基準として解析した.対象は覚醒下手術が予定されている天幕上グリオーマ61例(平均年齢41歳,低悪性度42例,高悪性度19例,左半球50例).

【結論】

左半球に腫瘍が存在した50例全体ではDCSを基準とした場合のnrTMSの精度は,感度81.6%,特異度59.6%,陽性的中率78.5%,陰性的中率64.1%であった.年齢,悪性度,腫瘍体積,解剖学的な言語関連脳領域への腫瘍の浸潤の有無とマッピング精度の関係を検討したところ,腫瘍が言語関連脳領域に及んでいない場合は,及んでいる場合に比較してAUC値は有意に高かった(0.81 vs. 0.58,p<.0001).

【評価】

現在,言語機能の側方性に関してはWadaテストが最も信頼性の高い方法として使用されているが(文献1),選択的な内頸動脈造影と麻酔薬が必要という侵襲性が問題である.一方,言語野の検出には機能的MRI(fMRI)が用いられているが,fMRIでの陽性部位は言語タスクによって引き起こされた興奮性活動全体を反映するため必ずしも正確に言語野を反映しない可能性がある(文献2).現在,nrTMSは,シルビウス裂周囲の言語野に浸潤したグリオーマにおける言語野マッピングの手法として利用が進んでいる(文献3,4).ただし,この手法もまた言語タスクや刺激の方法,腫瘍の種類,言語野への浸潤や浮腫の有無によって,影響を受ける可能性がある.
本研究は,優位半球に腫瘍がある50例を対象にnrTMSによる言語野マッピングの精度と年齢(≧40 vs. <40),悪性度(grade I,II vs. III,IV),腫瘍体積(≧40 vs. <40 mL),解剖学的な言語関連脳領域への腫瘍の浸潤の有無(有り22 vs. 無し28例)との関係を求めたものである.その結果,言語関連脳領域への腫瘍の浸潤がない症例ではnrTMSの精度は高く,感度90.9%,特異度72.0%,陽性的中率86.5%,陰性的中率80.0%であった.AUC値も0.81と高かった.この結果を受けて著者らは,シルビウス裂周囲の言語野に腫瘍が及んでいない症例ではnrTMSは言語野マッピングの信頼性の高い方法であると結論している.
一方,右半球に腫瘍が存在する11例では,両側でnrTMSによる言語野マッピングが行われている.10例では左側に言語野が存在したが,1例では右側に存在することが明らかになった.右半球グリオーマ症例における言語野の右半球局在は手術戦略上重大な意味を有しているが,それを術前に非侵襲的に検出出来ることもnrTMSの重要な意義であると思われる.

<著者コメント>
我々は,言語・運動機能および高次脳機能に関わる脳部位に発生した腫瘍に対しては,その機能を温存しながら安全に摘出するため,言語・運動機能を評価しながら腫瘍を摘出する覚醒下手術を積極的に行っている.覚醒下手術の前に脳機能の正確な位置情報が把握できれば,より安全な覚醒下手術を行うことができる.しかし,言語野の非侵襲的でかつ精度の高い術前診断法は未だ無いのが現状である.反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)は,頭蓋内に電場を誘導させることにより,神経細胞を刺激する方法である.コイルに流れた電流により発生した磁場が,骨や軟部組織を通過し,生体組織に電流を誘導し,介在ニューロンを刺激することで錐体細胞を興奮させる.近年高精度ナビゲーションシステムを併用することで(nrTMS),解剖学的により正確な刺激が行えるようになった.今回このnrTMSを用いて,覚醒下手術が予定されているグリオーマ患者を対象に,脳のどの部位が言語機能を司っているかを調べるため,前向き臨床研究を行った.今回の研究を通して,nrTMSを用いて患者負担が少なく安全で信頼性の高い言語野推定の方法を開発できたことの意義は大きい.今後は言語機能だけでなく高次脳機能を含めた脳内のネットワークの解析を行っていく予定としている.覚醒下手術を行わなくても,nrTMSを用いることで,言語機能ならびに高次脳機能の温存を可能とする新たな脳腫瘍手術法の発展に繋がることを期待したい.(本村和也)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

本村和也