蓄積アミロイドβに対する抗体薬(donanemab)による早期アルツハイマー病の治療:2相試験で有効性を示唆

公開日:

2021年6月1日  

最終更新日:

2021年6月8日

Donanemab in Early Alzheimer's Disease

Author:

Mintun MA  et al.

Affiliation:

Eli Lilly, Indianapolis, IN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33720637]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2021 May
巻数:384(18)
開始ページ:1691

【背景】

アミロイドβ蛋白(Aβ)の蓄積はタウ蛋白の蓄積につながるアルツハイマー病の初期変化であると考えられており(文献1),多くの製薬メーカーがAβ抗体薬の開発を急いでいる.ドナネマブ(donanemab)はイーライリリー社が開発したAβプラークN末端のピログルタミン酸塩に対する選択的モノクローナル抗体薬である(文献2).本研究は米/加56施設で実施された2相試験で,PETでアミロイドとタウ蛋白の蓄積が証明された早期アルツハイマー病の257例を対象とした.131例がドナネマブを,126例が偽薬を4週毎に72週間経静脈的に投与された.一次アウトカムはiADRS(統合アルツハイマー病評価スケール).

【結論】

76週後のiADRSの低下(悪化)は実薬群6.86,偽薬群10.06でその差は有意であった(p=.04).二次アウトカムのCDR-SB,ADAS-Cog13単独,ADCS-iADL単独,MMSEでは数値上は実薬群の方が低下は少なかったが,統計学的には有意ではなかった.PETでのアミロイドプラークの定量評価では,偽薬群では殆ど変化がなかったのに対して実薬群ではベースラインの108から84センチロイド低下した.タウ蛋白の蓄積には変化がなかった.アミロイド関連画像異常-浮腫(ARIA-E)の発生率は,実薬群で有意に高かった(26.7 vs. 0.8%,p<.001).

【評価】

この抗Aβ抗体ドナネマブの初期アルツハイマー病に対する投与治験(第2相TRAILBLAZER-ALZ1)は,投与開始後76週(18ヵ月)でのiADRSの低下は実薬群で有意に少ないことを示した.言い換えれば,アルツハイマー病の進行抑制効果を示唆している.iADRSはアルツハイマー病の認知機能評価尺度ADAS-Cog13と日常生活機能評価尺度ADCS-iADLを組み合わせたもので,低スコアほど認知機能および日常生活機能障害が強いことを示す.ただし,統計学的にはその違いは大きくなく(p=.04),他のアルツハイマー病あるいは認知症に関する4個のスケールはいずれも2群間で有意差を示さなかった.
一方,画像上のアミロイドプラークに関しては,76週目では偽薬群ではベースラインからわずかに蓄積増を示したのに,実薬群では8割以上のアミロイドプラークが除去されていた.タウ蛋白質に関してはこのような差が認められなかったが,著者らは,PET画像上のタウ蛋白質の減少はアミロイドの減少より遅れて出現する可能性があり,18ヵ月という観察期間が短かすぎた可能性があると推察している.その根拠として,常染色体優性遺伝性アルツハイマー病患者では脳のアミロイド沈着の検出からタウ蛋白の検出までの期間が10−20年と長いことを挙げている(文献3).
気になるのは有害事象であるがアミロイド関連画像異常-浮腫(ARIA-E)の発生率は,実薬投与群の26.7%で認められた.ただし症候性ARIA-Eの発生率は6.1%(8例)で,ARIA-E発生例のうち22%であった.この中で混迷を来した1症例を含む2例(1.5%)は入院治療を要したが,症状は投薬中止によって改善したという.
現在進行中の1,500人を対象とした第3相TRAILBLAZER-ALZ2(NCT04437511,2023年12月終了予定)でドナネマブの有効性がより多くの評価基準で証明されれば,アルツハイマー病の抗体薬治療の可能性が一歩前進することになる.しかし,FDAの認可までは長い長い道のりが待っていそうである.本論文の電子版が発表されたのは3月13日土曜日であるが次の月曜日にはイーライリリーの株価は9%も下落して,同社の市場価値は200億ドル低下した.少なくともこの段階では,この論文に対する市場の反応は厳しかった感がある.
なお,抗Aβ抗体薬で先行する米バイオジェンとエーザイ株式会社のアデュカヌマブ(アデュヘルムⓇ)については2つの3相試験の結果を受けて2020年2月にFDAへの生物製剤ライセンス申請(BLA)を行った. 2021年3月段階ではFDA末梢・中枢神経系薬物諮問委員からの厳しい見解も表明されていたが(文献4,5),6月7日に迅速承認が発表された.

<コメント>
アミロイドカスケード仮説に基づく創薬には,これまでの失敗経験をふまえて2つの流れがある.1つは最終段階のAβ成熟繊維(老人斑)よりも早期の段階にある物質(オリゴマーやプロトフィブリル)を治療ターゲットとすること, もう1つは対象患者を軽度認知障害などのより軽症例へシフトすることである.
このような流れの中で,本研究で用いられたドナネマブはAβ成熟繊維をターゲットにしており,軽度アルツハイマー型認知症も対象となっている.それにもかかわらず,認知機能評価尺度と日常生活機能評価尺度を組み合わせた臨床評価(iADRS)において実薬群がプラセボに対して有意に良好な結果を示した.先行するアデュカヌマブのデータも併せて考えるとAβ成熟繊維をターゲットとすることがコンセプトとして正しい可能性を示す報告である.対象患者をより早期の症例に限定すればさらに明確な臨床的効果が証明できるかもしれないが,軽症例ではむしろ認知機能検査の変化量が小さく,有意差を出すのが難しくなる可能性もある.
本研究ではアミロイド関連画像異常-浮腫(ARIA-E)が実薬群で26.7%に認められている.これはアデュカヌマブでも報告されており,抗Aβ抗体薬の最も危惧される有害事象である.(横山俊一)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

横山俊一