くも膜下出血の機能予後不良(mRS≧3)は年齢と非線形に相関することの可視化:日本脳卒中データバンク4,149例の解析

公開日:

2021年6月29日  

最終更新日:

2021年6月30日

Visualisation of the non-linear correlation between age and poor outcome in patients with aneurysmal subarachnoid haemorrhage

Author:

Ikawa F  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:34170840]

ジャーナル名:J Neurol Neurosurg Psychiatry.
発行年月:2021 Jun
巻数:jnnp-2020-325306
開始ページ:

【背景】

WFNSグレードや年齢がくも膜下出血患者の予後に強く影響することは良く知られているが(文献1,2,3,4),医療者や患者/家族の意思決定にあたって利用しやすい視覚的モデルはない.広島大学のIkawaらは日本脳卒中データバンク(JSDB)に登録されたくも膜下出血患者(2000年から2017年の発症)のうち3日以内に動脈瘤の治療がされた4,149例を対象に,年齢(30~90歳)を含めた諸因子が退院時機能予後不良(mRS≧3)に与える影響を解析し,予後推定モデルを創出した.予後に影響を与える可能性がある因子の変数重要度の評価にはランダム・フォレストモデルによる機械学習を用いた.

【結論】

予後推定の変数重要度は,WFNSグレードが最大で,続いて年齢(WFNSの0.57倍),FisherのCTグレード(同0.17倍),動脈瘤径(同0.10倍)の順であった.
他の共変量を調整後,年齢と退院時機能予後不良のリスクには非線形相関が認められた.WFNSグレード I~IIIでは加齢によるリスク上昇スロープの傾きは若年のうちは小さかったが,高齢になるに従って大きくなった.グレードIVではスロープの傾きは若年者でも大きかった.グレードVではスロープは相対になだらかであったが,若年者でも機能予後不良のリスクは高かった.

【評価】

文章にするとわかりにくい話であるが,実際に呈示されているチャートを見ると各WFNSグレード(I~V)毎の加齢によるリスク上昇の変化が決して直線的ではなく,非線形(非直線)であることが視覚的に良くわかる.また,チャートはクリッピング(72%)あるいは血管内治療(28%)それぞれの設定で作成されているが,上記の線形はほぼ同一である.
従来,年齢層別のオッズ比でリスクに与える年齢の影響が語られてきたが(文献1,5,6),当然ながら年齢が上がるにつれてリスクは連続的に変化して行くものであるから,このチャートの方がより現実を反映した形になっている.
加えて,このチャートは,比較的最近の日本での実臨床データに基づいており,今後わが国のくも膜下出血の治療現場での方針決定や患者/家族への説明に活用されることと思われる.
留意すべきなのは,JSDB参加施設の多くは日本でも比較的経験症例数が豊富な脳卒中センターであり,結果として全国的な水準と比較すれば機能予後不良のリスクは低く推定されている可能性があることである.また,クリッピングあるいは血管内治療の選択は各施設に委ねられているため,統計学的に調整不可能な交絡因子によって重症となっている患者に血管内治療が選択されている可能性がある.このため,クリッピングのリスクは相対に低く推定され,血管内治療のリスクは高く推定されている可能性がある.

<コメント>
本研究は,以前,DPCを用いたくも膜下出血の研究で年齢別のSAH転帰,危険因子についてJNNPに投稿した際に,Reviewerから「年齢は連続変数であり,非線形関係であるが,それが示されていない」と指摘された課題に対し,我々が答えを出した論文である.年齢と機能予後不良の相関モデルは既に論文化されているので,可視化されている点に本論文の新規性がある.カバーレターでは,当時のやりとりも説明したが,COVID-19の影響もあり,判定まで5か月も要した.おそらく同じReviewerがMinor Revisionと判定してくれたのだろうと思われたが,改めて日本からの投稿にはハンディを感じた.クリッピングとコイリングの比較も考察していたが,比較した研究ではないとのコメントがあり,削除した.
また,臨床疫学会で知り合いとなった共同研究者の先生には統計処理で大変お世話になり,感謝申し上げたい.COVID-19の前には,東大に通えたことが懐かしいが,その後はWEB会議となった.本研究は,Limitationsにも書いているように,Validationができていない.現在,脳卒中データバンクとは独立した9大学のデータを集め(POST.SAH study)てValidation中であり,近い将来報告できれば幸いである.(島根県立中央病院 井川房夫)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

井川房夫