術前MRIに基づく機械学習によるグリオーマの分子マーカー予測の精度:44報告のメタアナリシス

公開日:

2021年6月29日  

最終更新日:

2021年6月30日

Machine Learning for the Prediction of Molecular Markers in Glioma on Magnetic Resonance Imaging: A Systematic Review and Meta-Analysis

Author:

Jian A  et al.

Affiliation:

Computational NeuroSurgery (CNS) Lab, Department of Clinical Medicine, Faculty of Medicine, Health and Human Sciences, Macquarie University, Sydney, Australia

⇒ PubMedで読む[PMID:33826716]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Jun
巻数:89(1)
開始ページ:31

【背景】

グリオーマの分子診断は,治療法の選択と予後に大きな影響を与える.しかし組織学的に分子診断を行うためには手術を要するという侵襲性と,腫瘍内の不均質性による検出精度のばらつきという問題を抱えている.術前MRIの機械学習(ML)によってグリオーマの分子診断を予測する報告が次々となされている.シドニーのJianらは,2020年4月までの放射線画像のMLによるグリオーマ(WHO 2~4)の分子診断に関する報告の中からPRISMAガイドラインに基づいて44報を抽出して,診断精度についてのメタアナリシスを行った.画像特徴量の抽出には44報告中73%がRadiomics(文献1,2,3)を,16%が深層学習(文献4)を用い,11%がMRSなどの定量的特性かそれとVASARIを組み合わせていた.

【結論】

トレーニングデータセット(18報告)ではグリオーマのIDH変異診断の統合感度と統合特異度は0.88(95% CI 0.83~0.91)と0.86(95% CI 0.79~0.91)であり,検証セットでは0.83~0.85であった.水増しデータを使用した研究では特異度が,advanced MRI撮影を使用した研究では感度が高かった(ともにp=.05).
トレーニングデータセットではMGMTプロモーターメチル化と1p/19q共欠失の統合感度と統合特異度は0.76~0.83であった.MGMTに関しては,通常MRI撮影が感度,特異度に対して好影響を及ぼしていた(ともにp<.05).

【評価】

今はやりのグリオーマの遺伝子型についての機械学習による診断のメタアナリシスである.IDH変異もMGMT変異も,感度,特異度は約8割という結果である.TERT(4報告)では感度0.75~0.86,特異度0.55~0.93であり,ATRX(3報告)では感度0.84~0.95,特異度0.75~0.90であった.EGFR,p53,PTENに関しては感度・特異度はかなりばらついた(0.55~1).
IDH変異,MGMT変異,1p/19q共欠失などの情報が術前MRIに基づいて高い精度で推定できることになれば,手術戦略に大きな影響を与えるだろうし,術前化学療法を含めた集学的治療の可能性が開けてくる.機械学習によるグリオーマの分子マーカー予測という領域は今後益々発展するものと思われる.しかし,特異度が8割前後という現段階での到達点を考慮すれば,まだ機械学習による推定に完全依存した治療戦略を立てるわけには行かず,今後の進歩に期待したい.
この領域のエキスパートである木下は “Radiomicsやそこから派生した画像解析が内在する本質的な問題は,定性画像の半定量化解析にある.画像解析アルゴリズムに入力する際の生画像が不均一であったり,質が低いものであったりすれば,解析系のアノルゴリズムをどれほど改良しても得られる診断性能には限界がある.今後MRIを中心に定量的画像取得が一般化すれば,この問題が根本的に解決されることが予想される” と述べている(文献5).
なお,本論文はシドニーのマッコリー大学コンピュータ脳神経外科学研究室(Computational NeuroSurgery [CNS] Laboratory)からの報告である.ウェブサイトによるとこのCNS lab. は脳外科医,コンピュータ科学者,電子工学科学者,神経放射線医,数理統計学者などが共同して,脳画像や病理像のAIを用いた自動診断の研究を行っている.このチームは最近,深層学習などのAIの手法による脳腫瘍診断,脳動脈瘤診断,病理診断などで次々と研究成果を発表している.本論文の第一著者のAnne Jianはメルボルン大学医学部を最近卒業したばかりである.楽しみなチームである.

<コメント>
この論文はRadiomicsを用いた神経膠腫の分子診断という質的診断の技術開発についてこれまでの報告をまとめたものである.この論文から読み取ることができる重要なメッセージは以下の3つになる.
 1. IDH遺伝子変異は比較的高い精度でRadiomicsという手法を用いて診断できそうである.
 2. 1p/19q共欠失の診断はIDH遺伝子変異のそれと比較すると難易度が上がるが,Radiomicsによる診断は可能かもしれない.
 3. MGMTプロモーターメチル化診断をRadiomicsで達成することは相当に難しい.
Radiomicsやその周辺技術の改良が今後も精力的に進められていくと思われるが,ひとまず立ち止まり,これまでの研究成果を俯瞰するという意味において,この論文は必読すべきものと評価する.(旭川大学医学部脳神経外科 木下学)

執筆者: 

有田和徳