米国脳外科レジデント採用面接者の94%が不適切か違法性が疑われる質問を受けている

公開日:

2021年7月7日  

最終更新日:

2021年7月7日

Neurosurgery Resident Interviews: The Prevalence and Impact of Inappropriate and Potentially Illegal Questions

Author:

Limoges N  et al.

Affiliation:

Division of Neurosurgery, University of Vermont Medical Center, Burlington, Vermont, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33733664]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Jun
巻数:89(1)
開始ページ:53

【背景】

米国の専門医レジデントの採用は全米レジデント・マッチング・プログラム(NRMP)が一括してコントロールしており,研修希望者と研修プログラムの双方のランキングに基づいて,専用のコンピュータ・アルゴリズムで機械的に決定される.脳外科も例外ではない(文献1).NRMPはレジデント希望者の採用面接の際に,雇用の差別や不均衡につながる不適切あるいは違法性の可能性がある質問(以下不適切質問)を禁止している(文献2).本論文は,レジデント採用面接時の不適切質問に関する,2018年と2019年の採用面接を受けた265人に対するemailによる調査の結果である.133人(50%)から回答が得られた.

【結論】

回答者の内訳は女性32%,既婚が24%,コーカシアン60%,アジアン23%,ブラック7%など.面接中に1個でも不適切質問を受けたことがあると答えたのは94%で,74%は結婚・パートナー関係,29%は挙児希望,46%は家庭に関して,30%は民族的背景,15%は宗教,15%は年齢についての質問を受けたことがあった.また60%は回答者が採用面接を受けたプログラムを何番目にランキングしているか聞かれたことがあった.
これらの不適切質問を受けた回答者の45%は面接を行ったプログラムの評価ランキングを下げた.

【評価】

NRMPはレジデント採用面接にあたっては年齢,性(gender),人種,宗教,性的指向,家族状況を聞いてはならず,採用希望者が採用プログラムにフィットするかどうかに集中すべきであると明記している.また,採用希望者が同時に申請しているかも知れない他のプログラムのことを聞いてはならず,2回目の面接(セカンドルック)や面接後の交流(電話など)も採用希望者のプログラム評価ランキングに影響を与える可能性があるので行ってはいけないと記載している(文献2).しかし,2013年のNRMPの調査では,全専門診療科のプログラムでのマッチング達成者7,028人のうち64.8%が採用面接で不適切質問を受けたと報告しており,2016年のマッチング希望者10,976人でもその割合は65.9%と改善していない.
脳外科レジデント採用希望者を対象とした本研究では回答者の94%が不適切質問を受けたことがあると答えているが,この数字は他の専門医レジデント・プログラムでの64-85%(文献3,4)に比べれば遥かに高い.
脳外科レジデント採用希望者の67%が26-30歳で,女性が32%,24%が既婚者で,20%が同棲中という背景を考えれば新規レジデントを採用するプログラム側が結婚・パートナー関係,家庭環境,挙児希望を聞いておきたいという欲望があることは推定可能ではあるが,今日の社会規範からは逸脱している.本報告では,不適切質問を行ったプログラムに対して約半数の回答者が評価ランキングを下げているが,ある種の対抗手段である.
NRMPは不適切質問に関する違反の可能性が書面によって報告された場合は,プログラムの全面的な調査と評価を行い,違反と判定すれば,当該プログラムの新規レジデント採用を1~3年あるいは永久に停止すると決めている.
この論文に対して,クリーブランドクリニックの脳外科チーフのBenzel ECはコメントの中で,不適切質問がレジデント希望者にもプログラムにも悪影響を与える可能性を認めながらも,『20年前には無害と思われていた質問が今や不適切あるいは不法となっている』と時代の変化に対する思いを率直に表現している.UCLAの中堅Amar APは,近年の文化規範の変化や厳密になった協定によってプログラムに合った適切な候補を選ぶために必要な面接の話題が切り詰められてきていると述べている.たとえば,採用希望者が当たり障りのない自分の生育過程について語った場合,それに対する良く練られたフォローでさえ,ルール違反になってしまう可能性があるという.また,他のプログラムと比較しながら自分たちのプログラムの利点を説明することもNRMPのコードに抵触する可能性があると述べている.今回のLimogesの報告はこれらの問題に対する問題提起となっており,修正への第一歩となっていると未来への希望を託している.
今後,米国のレジデント・マッチングがどのように変わって行くのかを注視しながら我が国におけるレジデント・プログラムをより良い方向に改善させる更なる努力は必要であろう.
ちなみに,本質問に答えた採用希望者133人のうち75%は全米110の脳外科レジデント・プログラムのうち50ヵ所以上のプログラムに応募しており,14%が40から50ヵ所のプログラムに応募していた.また最終的に,15ヵ所以上の脳外科レジデント採用面接に参加したのは58%にのぼる.これらの数字と日本の脳外科レジデントの多くが出身大学プログラムを選択していることを比較すれば,米国ではレジデント希望者もプログラム側もより良いプログラムを!,より良い人材を!という強い希求に従って積極的に行動していることが良くわかる.既に多額のローンを抱えているレジデント希望者がさらに借金を重ねながら飛行機で全国転戦する姿は日本では想像出来ない.

<コメント>
脳や脊髄,一部末梢神経の手術を行うことを社会的に要求されている米国の脳外科では神経内科的疾患,手術を要しない脳卒中の治療,救急救命患者管理に治療介入することがないため,手術数,施設数から毎年どれくらいの新規脳外科医が必要か計画性を持って論じることが可能である.この点では,ほぼ希望者全員が脳外科入局を歓迎される日本の現状とは根本的に大きく異なっており,アメリカで脳外科医アメリカで脳外科医になるということがいかにcompetitiveであるか容易に想像できる.
実際,アメリカでは各施設毎年2名(施設によっては3名),全米で毎年約210名の新規脳外科レジデントが誕生し,そこから7年間のレジデントトレーニングが開始される.多くのレジデントは60−70箇所のレジデント・プログラムに応募して,面接に招待された15前後の施設へ出向いてin personの面接を受けることになり,母校でレジデントになることの方が稀である.つまり,採用者は自分たちの施設方針にあった最適の候補者を,応募者は自分の将来計画にあった最適の施設を求め,双方ともに非常に激しい競争原理に基づいた文字どおりのマッチングが行われているのである.その中で,応募者側が提出したUSMLEのスコアや推薦状のみでは知ることのできない情報を採用者側が何とか探りたい,という心情は十分に理解可能である.
本論文は現代社会,とりわけアメリカでの面接の難しさを如実に顕している.会話の流れから出た質問さえでも意図せずコードに抵触する可能性があることを考えると,上記BenzelやAmarの正直なコメントにも同情の念を禁じ得ない.(University of Iowa 脳神経外科 山口智)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

山口智