正常圧水頭症に対するシャント手術は再発性転倒を半減させるが,それでも同年代健常者の3倍転倒する

公開日:

2021年7月8日  

最終更新日:

2021年7月7日

Falls and Fear of Falling in Shunted Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus-The Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus Comorbidity and Risk Factors Associated With Hydrocephalus Study

Author:

Larsson J  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Science, Neurosciences, Umeå University, Umeå, Sweden

⇒ PubMedで読む[PMID:33830219]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Jun
巻数:89(1)
開始ページ:122

【背景】

特発性正常圧水頭症(INPH)の患者では認知症と歩行/バランス障害のために転倒が多い(文献1,2).スウェーデンUmeå大学のLarssonらはINPHに対するシャント手術が転倒や転倒への恐怖などを減らせるか,健常者と比較して検討した.対象は2008年から3年間にスウェーデンでシャント手術を受けた術前MMSEが23点以上のINPH患者176名,対照は非INPHでMMSEが23点以上の性・年齢を一致させた健常者368名.観察期間は術前1年間,術後平均21ヵ月間.1年間で2回以上の転倒を再発性転倒とした.

【結論】

治療前のINPH患者では対照と比較して再発性転倒の頻度が高く(67 vs. 11%;p<.001),転倒への恐怖スコア(FOF,1:全然ない~5:常にある)が高く(3.3 vs. 1.6;p<.001),転倒しない自信スコア(FES,13:最低~130:最高)が低かった(78 vs. 126;p<.001).
シャント手術後は手術前に比較して再発性転倒は減少し(35 vs. 67%),FOFスコアは低下し,FESは改善したが(各p<.001),いずれも対照のレベルには達さなかった.
QOL低下とうつ症状はシャント手術後の患者か対照かを問わず,再発性転倒患者で多かった.

【評価】

転倒は,INPH患者では頻繁に認められ,これが患者/家族や医療者がシャント手術を決断する重要な因子でもある.しかし,シャント手術後も転倒は稀ではなく,シャント術後に硬膜下水腫が生じているような患者では,急性/慢性の硬膜下血腫の発生から長期入院につながることも多い.また,転倒は脳障害や骨折を引き起こすのみならず,転倒への恐怖はQOLや自立への重大な障害となり得る(文献3,4).
本研究は,スウェーデンにおけるINPHに対するシャント手術の8割をカバーする全国調査で,対照と比較したINPH患者の手術前と手術後の転倒とその心理的不安に関する症例対照研究である.本研究は,INPH患者にとって,再発性転倒の頻度上昇,転倒への恐怖の増加,転倒しない自信の低下は重要な問題であり,これらが手術によって改善することを示した.一方,術後も持続する転倒リスクとこれに対する予防策は術後ケアのプランニングの中で常に考えておかなければならないと結論している.
確かに,INPHの患者ではシャント手術後に再発性転倒は半分に減るが,それでも健常者に比較すれば3倍以上であるという本研究が示した事実は重大であり,積極的な介入が必要なことを示唆している.しかも,本研究の対象になったのはMMSEが23以上であり,シャント施行例の約1/3を占めるMMSE23未満の患者群は対象から除外されている.これらのMMSE23未満の患者では転倒リスクはさらに高いことは容易に推測できる.
本研究が示した事実は,今後の前向き研究で検証される必要があるが,同時に転倒防止に向けた介入手法の開発も重要な研究課題である.

<コメント>
特発性正常圧水頭症(INPH)の患者には転倒エピソードが多い.本研究で示された,INPH群では再発性転倒率が非患者群の6倍であること,またシャント手術後は転倒率が半減しているという結果はINPHに対する手術療法をあらためて支持するものとなっている.INPHに対する手術効果が移動速度や歩容の改善ばかりでなく,転倒にも及ぶことが確認できる.
しかし,シャント手術後でも非患者群と比較すると約3倍の転倒率である.INPHは緩徐進行性の疾患であるので,診断が確定する時点で,身体機能が低下してフレイルの状態に陥っていることも多い.手術で機能改善のきっかけが得られても,適切なリハビリテーションが行われなければ,フレイルの状態が持続するため,転倒頻度が非患者群と同等にはならないことは予想されるところである.転倒頻度が多い症例については,手術後の速やかなリハビリテーションが開始できるように手術前から計画することが肝要と思われる.
なお,この研究ではシャント手術の手技や術後合併症の有無については言及していない.術後再発性転倒の患者群にシャント閉塞やアンダードレナージの症例が含まれていないのか解析が必要と思われる.(厚地脳神経外科病院 川原 隆)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

川原 隆