限局性皮質異形成における脳磁図上でのてんかん棘波起始ゾーンと棘波ピークゾーンの関係:新たな手術戦略の提唱

公開日:

2021年7月8日  

最終更新日:

2021年7月8日

Surgical strategy for focal cortical dysplasia based on the analysis of the spike onset and peak zones on magnetoencephalography

Author:

Shirozu H  et al.

Affiliation:

Department of Functional Neurosurgery, National Hospital Organization, Nishiniigata Chuo Hospital, Niigata, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:31585422]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2019 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

限局性皮質異形成(FCD)による難治性てんかん患者における切除範囲決定のために脳磁図の導入が進んでいる.西新潟中央病院のShirozuらはFCDに対する適切な手術戦略樹立のために,傾斜磁場トポグラフィー(GMFT)の手法によってスパイク・オンセット・ゾーン(Sp-OZ)を推定し,スパイク・ピーク時の等価電流双極子ゾーン(Sp-OZ)の分布と比較し,治療転帰との関係を解析した.各スパイクの初期に磁束密度が200 fT/cmに達した時の活動範囲をGMFTオンセット・エリアとし,複数(6個以上)のスパイクに伴うGMFTオンセット・エリアを総和して70%以上が含まれるエリアをSp-OZとした.

【結論】

対象は41例で,術後エンゲル・クラス1はFCDtype IIbで90.9%(10/11)で,type IIaの30.8%(4/13),type I の35.3%(6/17)に比較して有意に高かった.Sp-OZはtype IIbはIIaやIに比較して有意に狭かった.Sp-OZとSp-PZの合致度はtype IIbはIIaやIに比較して有意に高かった.Sp-OZの完全切除例は非完全切除例に比較してエンゲル・クラス1の頻度は有意に高かった(90 vs. 35.5%,p=.003).Sp-PZに関しては完全切除と非完全切除間で有意差はなかった(69.2 vs. 39.3%).

【評価】

脳磁図は非侵襲的で,頭皮脳波と比べ,脳全体をより高密度に調べることが可能である.また,高い空間分解能と時間分解能を持っており,てんかんの診断と手術治療における利用が広がっている(文献1).計測された磁場からてんかん棘波の発生源を推測する方法としては,脳を均質球導体と想定してSarvas式を用い,1-数個の等価電流双極子(ECD)で近似させる手法が最も一般的である(文献2).ただし,この方法は空間的な広がりをもつてんかん棘波の活動の中心のみを示すという特性を有している.一方,Hashizumeが開発した傾斜磁場トポグラフィー(Gradient magnetic-field topography:GMFT)では棘波の空間的広がりを3次元脳表MRI画像上に描出させることが出来(文献3),頭蓋内脳波によるVoltage mapのようにてんかん棘波が起始部から徐々に周囲に拡延して行く様子が詳細に観察出来る.
限局性皮質異形成(FCD)は一般に3亜型に分けられる.皮質神経細胞の配列の乱れ(皮質構築異常)はあるが,異型細胞(dysmorphic neuron)を認めないのがtype I.Dysmorphic neuronが認められるのがtype IIで,そのうちballoon cellがないものがIIaで,あるものがIIbである(文献4).
さらに,病因論的におそらく異なる他の病変を伴うものをtype IIIとしているが,本研究ではtype IIIは除外されている.
本研究は,傾斜磁場トポグラフィーで作成されたスパイク・オンセット・ゾーン(Sp-OZ)と等価電流双極子法で作成されたスパイク・ピーク・ゾーンの関係がFCDの亜型毎に異なっていることを明らかにした.すなわち,FCD type IIbでは,Sp-OZとSp-PZの合致度が高く,てんかん原性領域ないしネットワークが極めて限局しているのに対し,type Iとtype IIaではSp-OZとSp-PZの合致度が低く,てんかん原性領域やネットワークはより広範で複雑であることを示唆しているという.また,Sp-OZの完全切除は術後てんかん完全消失(エンゲル・クラス1)の高い確率をもたらしたが,Sp-PZに関してはそうではなかった.
著者らは,FCDタイプによるてんかん原性領域の拡がりの差を胎生期における神経細胞移動障害で説明を試みている.胎生早期の移動障害ではtype IIbで認められる凝集し限局したてんかん原性領域を形成するのに対して,より後期の移動障害ではtype Iとtype IIaで認められる広範囲でまばらなてんかん源性焦点を形成する可能性を推定している.
この研究結果は,FCDの切除に当たっては,Sp-OZとSp-PZが重なっているケースではtype IIbの可能性が高く,特にSp-OZを切除すれば術後エンゲル・クラス1の可能性が高いこと,一方一致していない症例でもSp-OZの切除を目指すことでエンゲル・クラスが上がることを示唆している.
しかし,本研究は後ろ向き解析であり,切除範囲はSp-OZのエリアに基づいて決定されていたわけではない.今後の前向き研究で本仮説が検証される必要性がある.

<著者コメント>
本研究は,我々が2010年に報告した発作時放電におけるGMFT-onset zoneの重要性に関する研究(文献5)を発展させたものである.この時から発作時放電と同様に,発作間欠期てんかん性放電においても,起始と伝播があることを予想していた.当初,GMFT-onset zoneとして研究を進めていたが,モントリオールのグループにより,“spike onset zone” という用語が提唱されたので(文献6),この概念を本研究に導入したものである.モントリオールグループのものは,EEG-fMRIを用いた研究であるが,我々は時間分解能の観点から,MEGの方が優れていると予測していた.実際に解析を進めると,GMFTの最大の利点である時間空間分解能がspike onset zoneの解析に極めて有用であった.
また,当初から限局性皮質異形成(FCD)における発作間欠期spikeの起始部と伝播部位の間にはずれが存在している可能性を感じていたが,西新潟中央病院における多数の症例と,新潟大学脳研究所病理学の丁寧な組織学的な評価により,これを実証することができた.FCDは内因性てんかん原性をもつ病変であり,MEG解析が極めて有用である.これらの要素が複合して成立した研究と言うことが出来る.
一方,上記の評価で述べられているように,本研究は後方視的研究であり,前向き研究での検証が必要である.また,GMFTには,脳表における活動しか表示することができず,半球間裂面,側頭葉内側・底面,深部構造(基底核など)など,脳表以外の部位の活動を表示することができない.この点ではGMFTにも限界があり,その他の空間フィルタなどによるspike onset zone解析が可能かどうか,今後の課題として研究を進めているところである.(西新潟中央病院機能脳神経外科 白水洋史)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

白水洋史