WHOグレード2/3グリオーマに対する覚醒下脳機能マッピング下の腫瘍摘出度が無増悪生存期間(PFS)に及ぼす影響

公開日:

2021年7月9日  

最終更新日:

2021年7月9日

Impact of the extent of resection on the survival of patients with grade II and III gliomas using awake brain mapping

Author:

Motomura K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Nagoya University School of Medicine, Nagoya, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:34009509]

ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2021 Jun
巻数:153(2)
開始ページ:361

【背景】

本研究は名古屋大学のMotomuraらによるWHO grade 2/3グリオーマに対する覚醒下脳機能マッピング下での腫瘍摘出度(EOR)が無増悪生存期間(PFS)に及ぼす影響の検討である.対象は126例(左半球が70%)で,腫瘍の存在部位は,前頭葉58%,島回21%,側頭葉10%,頭頂葉10%.病理診断はびまん性星細胞腫(G2)41%,退形成性星細胞腫(G3)14%,乏突起膠腫(G2)31%,退形成性乏突起膠腫(G3)14%であった.IDH野生型は全体の16.7%.ROC解析では5年PFSに関わるEORのAUCは0.738で,Youdenインデックスに基づいたカットオフ値は85.3%であった.

【結論】

全症例では,PFSはEOR≧100%(全摘+超全摘,n=47,MST:未達)ではEOR<90% (n=52,MST:43.1ヵ月)より有意に長かった(p=.03).びまん性星細胞腫と退形成性星細胞腫では,PFSはEOR≧100% (n=25)ではEOR<100%(n=45)より有意に長かった(p=.03).IDH変異型のびまん性星細胞腫と退形成性星細胞腫においてはEOR≧100%は良好なPFSと関係した(p=.02).一方,IDH野生型のびまん性星細胞腫と退形成性星細胞腫ではEOR≧100%は良好なPFSと相関はしなかった.

【評価】

既にWHO Grade 2/3のグリオーマでは最大限の腫瘍摘出と良好な予後が相関することが知られている(文献1,2,3,4).本研究も126例のグリオーマを対象とした後ろ向き研究であるが,G2/3グリオーマに対するEOR≧100%(全摘+超全摘=supratotal resection)はPFSを有意に向上させることを改めて示した(p=.03).多変量解析でも,IDH変異の有無と摘出度(EOR≧100% or<100%)はPFSと有意に相関する事を示している(p=0.001とp=0.02).
また,Duffauは超全摘手術では覚醒下脳機能マッピングが有用であることを報告しているが(文献4),本研究でも覚醒下脳機能マッピングを駆使している.本シリーズの126例全体では超全摘は15例(11.9%),全摘は32例(25.4%)で達成されているが,術後の恒久的な言語障害や運動障害の頻度は4.0%と7.1%と低い.
2020年のRossiらの報告では乏突起膠腫でも超全摘がPFSと相関しているが(文献5),本研究では,乏突起膠腫Grade 2/3ではEOR≧100%がPFSを延長しないという結果であった.この差は本シリーズの症例数が56例と限られていたことによるのかも知れない.
一方で,IDH変異型のびまん性星細胞腫と退形成性星細胞腫においてはEOR≧100%がPFSを延長させるが,IDH野生型の腫瘍ではPFSを延長しないという結果も示している.著者等が述べているように,近年G2/3のIDH野生型の星細胞腫は膠芽腫(WHO Grade 4)とほぼ同一の生物学的なポテンシャルを有することが判ってきている(文献6).2021年のWHO分類では,これらは星細胞腫の中にはふくまれず,EGFR,TERT,第7染色体増幅/第10染色体欠損のいずれかが確認されれば"diffuse astrocytic glioma,IDH-wildtype,with molecular features of glioblastoma (WHO grade 4)"と呼ばれると予想される(文献7).
本シリーズでは全摘+超全摘が達成されたG2グリオーマでは経過観察が,腫瘍が10%以上残ったG2グリオーマではテモゾロミドによる補助療法が,G3グリオーマではStuppプロトコールに沿った外照射とテモゾロミドによる補助療法が行われている.
本研究結果を受けて,著者らは,IDH野生型の星細胞腫G2/3ではより強力な補助療法が必要なことを示唆している.また,本研究はIDH変異や1p/19q共欠失の有無によって,グリオーマの摘出必要度が異なっている可能性も示唆している.今後,ラジオミクスなどのAI技術を用いた画像診断の導入によってIDH変異や1p/19q共欠失の術前診断が高精度で実施出来るようになれば(文献8),Grade 2/3のグリオーマに対する手術戦略が大きく変わる事が予測される.

<コメント>
この論文では,IDH野生型が全体の16.7%含まれたままでROC解析を行い,EORカットオフ値の85.3%を得ている.IDH野生型は生物学的に膠芽腫様の性質を持つと考えられるので,IDH変異型だけでROC解析を行いEORカットオフ値を求めれば,より本質的なG2/3グリオーマの摘出の目安が明確になったであろうと思われる.(鹿児島大学脳神経外科 平野宏文)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

平野宏文

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