経脳室的ニカルジピン投与はくも膜下出血後の遅発性脳虚血(DCI)を予防するのか:傾向スコア法による解析

公開日:

2021年7月9日  

最終更新日:

2021年7月9日

Does intrathecal nicardipine for cerebral vasospasm following subarachnoid hemorrhage correlate with reduced delayed cerebral ischemia? A retrospective propensity score-based analysis

Author:

Sadan O  et al.

Affiliation:

Department of Neurology and Neurosurgery, Division of Neurocritical Care, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34087804]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

くも膜下出血患者の約70%に血管れん縮が認められ,遅発性脳虚血(DCI)は20~30%の頻度で発生する(文献1,2).本研究はカルシウム拮抗薬ニカルジピンの経脳室髄液内(IT)投与のDCI予防効果に関するエモリー大学からの報告である.対象は2012年から5年間に同大学ICUに入院したくも膜下出血患者1,351例.422例は血管れん縮が診断されニカルジピンの髄液内投与を受けた(治療群).859例は血管れん縮はなかった(非れん縮群).治療群は非れん縮群より若年で(51 vs. 57歳),WFNSスコアが高く,修正Fisherグレードが高く,クリッピングの割合が高かった(30 vs. 11%).

【結論】

髄液内ニカルジピン投与によって,77.3%の患者でTCD上でのACA,MCA,BAのうちいずれかの主幹動脈の血流速度の低下が得られた.
SAHITデータベース(約14,000例,文献3)のうち髄液内ニカルジピン投与を受けていない患者の中から傾向スコア法でエモリー大学のニカルジピン治療群と同等の466例を抽出して対照群とした.
この対照群と比較してニカルジピン治療群の方が,DCIへの進行が少なく(OR0.6,95%CI:0.44~0.84),機能予後良好(mRS≦2)が多かった(OR2.17,1.61~2.91).

【評価】

くも膜下出血後の脳血管れん縮に対する予防的な薬物療法として,本邦ではRhoキナーゼ阻害薬であるファスジル(エリルⓇ)の点滴静注が行われている.欧米ではカルシウム拮抗剤のニモジピン(本邦未承認薬)の経口投与がクラス1として推奨されておりルーチンで使用されているが(文献4),それでも血管れん縮は高頻度で起こっている.同じくカルシウム拮抗剤であるニカルジピンの静脈内投与は,これまでの研究では血管撮影上の血管れん縮を改善はするが,3相試験では臨床的な効果を示していない(文献5,6).この理由として全身的(経静脈的)なニカルジピン投与が血圧低下をもたらす可能性が指摘されている.
本研究は,予防的投与ではなく血管れん縮の発生が診断された患者に対する髄液内ニカルジピン投与に関する研究である.髄液内ニカルジピン投与に関する研究としては過去最大の患者数が対象となっている.
本研究が行われたエモリー大学ではくも膜下出血後の患者には標準的ケアとして,ニモジピンとスタチンの経口投与,マグネシウム血中濃度の維持,正常体液量の維持の他,経頭蓋ドプラー検査(TCD)が毎日行なわれている.TCDやCT血管造影と神経学的検査によって臨床的に意義のある血管れん縮(Clinically relevant cerebral vasospasm)が発生したと認められれば,意図的高血圧,脳灌流圧維持,血管拡張剤の動注,バルーン血管拡張術,髄液内ニカルジピン投与のうちいずれかあるいは複数が行われている.ニカルジピンは脳室ドレナージから8時間おきに4 mgが投与されている.髄液内ニカルジピン投与は入院後平均5.8日後に開始され,平均8.3日間続けられた.
実際には,全対象例1,351例のうち臨床的意義のある血管れん縮は492例(36.4%)に発生し,このうち422例(85.8%)が髄液内ニカルジピン投与を受けている.
本研究の問題点としては後ろ向き研究であることの他,臨床的に意義のある血管れん縮の判断や髄液内ニカルジピン投与の判断は,カットオフ値やプロトコールに基づいて行われたわけではなく,主治医の判断に任されていた点が挙げられる.そういう意味ではかなりバイアスのかかった研究である.しかも,臨床的に意義のある血管れん縮と判断された患者のほとんどが髄液内ニカルジピン投与を受けているので,研究者らの施設には適切な数の対照群はなかった.
このため,SAHITデータベース(くも膜下出血の新しい予後推定モデル作成のための国際的な多施設レジストリ研究)から,傾向スコアマッチング法で対照群466例を作成し,エモリー大学の髄液内ニカルジピン投与群と比較したのがこの研究である.これによって髄液内ニカルジピン投与群の方がDCIへの進行が少なく,機能予後良好(mRS≦2)が多いという結果が得られている.
気になるのは合併症であるが,エモリー大学の症例では細菌性脳室炎の発生は2群間で同等であったが(3.1 vs. 2.7%,p>.1),最終的に脳室腹腔シャント手術を要した症例の割合は髄液内ニカルジピン投与群の方が高かった(19.9 vs. 8.8%,p<.01).この原因が頻回の脳室内薬剤投与という操作そのものか,製剤の問題か,あるいは他の因子かは不明である.ただし,19.9%という値は,対照群(SAHITからの抽出)における脳室腹腔シャント手術を要した症例の割合28.4%に比べれば低かったという.
これらの有害事象発生の可能性も含めて,今回の結果は多数例でのRCTで検証されるべきである.

執筆者: 

有田和徳