脳の免疫細胞は頭蓋骨由来であり,体循環とは独立している:最近の2個のサイエンス論文を基にした展望

公開日:

2021年8月9日  

最終更新日:

2021年8月9日

Bespoke brain immunity

Author:

Nguyen RH  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Neurosciences, Division of Neurosurgery, Cumming School of Medicine, University of Calgary, Calgary, Alberta, Canada

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ジャーナル名:Science
発行年月:2021 Jul
巻数:373(6553)
開始ページ:396

【背景】

ごく最近,脳や脊髄の免疫系が全身循環とは独立した頭蓋骨や椎体骨の骨髄系細胞によって供給される髄膜内免疫担当細胞に依存していることを示唆する2本の論文がサイエンス誌に掲載された(文献1,2).本稿はこれらの報告を受けて同誌に掲載されたPerspective(展望)である.
マインツ大学のCugurraらはUBC(ユビキチンC)-GFP(緑色蛍光蛋白質)マウスとワイルドタイプマウスを併体結合して共有循環系を作成した.60日飼育後のワイルドタイプマウスの髄膜で認められる単球,好中球,B細胞はUBC-GFPマウス由来(体循環由来)のものは少なく,隣接する自己の頭蓋骨骨髄細胞由来であると推定された.

【結論】

さらに,マウス自己免疫性脳脊髄炎,脊髄損傷,視神経損傷モデルでも中枢神経内に浸潤した免疫担当細胞は全身循環由来ではなく,髄膜由来であることを示唆した.
ワシントン大学セントルイス校のBrioschiらも単一細胞解析,共焦点イメージング,骨髄キメラ,併体結合モデルを用いて,中枢神経性抗原によって教育されたB細胞が頭蓋骨-髄膜経路を通して髄膜に持続的に供給されることを示唆した.
この2つの報告は,中枢神経が他の臓器とは異なる,免疫学的に独立した臓器であり,独自の免疫細胞のカードル(cadre;幹部)たちによって囲まれていることを示している.

【評価】

従来,頭蓋と脳表を結合する血管のネットワークは髄液吸収路の1つであると考えられてきたが,最近の研究は脳の病的変化に対応して迅速に骨髄系細胞を脳内に送り込むハイウェイの役割も果たしていることを示唆している(文献3).Cugurraらの研究はこの考えを拡大し,恒常状態でも頭蓋骨骨髄から髄膜への直接的な骨髄系細胞の供給が行われている(direct pipeline)ことを示している.Brioschiらも頭蓋骨骨髄からB細胞が供給され,このB細胞が硬膜内で成熟し,中枢神経性抗原を認識し寛容を導くと述べている.Brioschiらの報告で興味深いのは,高齢マウスでは,この硬膜内の成熟B細胞には体循環由来のものが増えてきており,このいわば “外来” B細胞が骨髄-髄膜-脳間で確立された中枢神経系免疫環境の安定性を混乱させる可能性があるという.これが,多発性硬化症の発症に関与しているのかも知れない.
実は脳のような臓器周囲の免疫細胞の貯蔵システムは他の臓器にも存在している.心臓周囲,腹膜,胸膜,大網などの脂肪内のリンパ球がそれに相当し,臓器の外側からの組織修復を担っているらしい.これらの臓器では免疫細胞は毛細血管後細静脈からの血管外漏出によって臓器に供給されるが,今回取り上げられた2つの論文では骨髄-髄膜系の免疫細胞は,独自の血管構築を介して脳に直接送り込まれること(invasion),すなわち必ずしも血液脳関門の崩壊を要さないことが示唆されている.
最近,全身の免疫システムとは独立した脳内免疫の特殊性(脳腫瘍の免疫特権)を打ち破り,抗腫瘍免疫を高める方法として,髄膜リンパ管システムへの介入の有効性が示唆されている(文献4).今回の2つの報告もまた,頭蓋骨-髄膜系への介入が抗腫瘍免疫を向上させたり脳損傷に際しての修復細胞の迅速供給源として使用出来るかも知れないことをうかがわせる.そのためには頭蓋骨-髄膜系の免疫細胞を目標とする脳病変に動員させるためのシグナリング分子機構を明らかにする必要性がある.
一方で,手術に際して頭蓋骨や硬膜を(一時的であれ)除去することが,これらの局所免疫システムに与える影響も検討されるべきである.

執筆者: 

有田和徳