WHO中枢神経系腫瘍第5版の概説:ネイビーからブルーへ

公開日:

2021年8月10日  

The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: a summary

Author:

Louis DN  et al.

Affiliation:

Department of Pathology, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School, Boston, Massachusetts, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34185076]

ジャーナル名:Neuro Oncol.
発行年月:2021 Aug
巻数:23(8)
開始ページ:1231

【背景】

脳腫瘍の遺伝子異常が次々に発見されるに従い,脳腫瘍の診断や予後推定における分子診断の重要性が明らかになってきた.これに基づいて,前回2016年のWHO第4版改訂版では従来の組織分類と分子情報を併せた「統合診断 integrated diagnosis」の概念が提出された.
本稿は間もなく出版予定の第5版についての,その編者の一人であるLouis DNによる概説である.
これによれば,第5版は第4版改訂版を土台として,その後の当該領域での新たな発見と発展,そして国際神経病理学会(ISN)からのcIMPACT-NOWという形での7回の提言を背景に組み立てられた.このため第5版は,分子診断の更なる進化による大幅な変更が含まれている一方で,組織学と免疫染色という従来の手法も反映したという.結果として,第4版改訂版に比較して新規の診断名22個が加わっている.

【結論】

実際的な病理報告書では,第4版改訂版で導入された重層的報告(Layered Report)の重要性が強調されている.すなわち①統合診断名 ②組織診断名 ③WHOグレード ④分子診断の4項目を記載することが求められている.
また,第4版改訂版では,①統合診断に必要な遺伝子検査を実施出来ない場合はNOSの接尾語を付記することとなっていたが,5版ではそれに加えて,必要な遺伝子検査を行ったにもかかわらずWHO診断分類に該当しない場合は,NEC(Not Elsewhere Classified)を付記し,将来の分子遺伝学的な発展にその診断をゆだねることになった.
なお従来WHO脳腫瘍分類ではグレードをローマ数字(I~IV)で表記していたが,記載間違いや読み間違いが生じやすいので,他の臓器のグレードと同様にアラビア数字(1~4)を用いることになった.

【評価】

実際に新たなWHO分類一覧を眺めてみると,一番印象的なのが,第4版改訂版でDiffuse astrocytic and oligodendroglial tumorsならびにOther astrocytic tumorsに含まれていた10数種類の腫瘍が①Adult-type diffuse gliomas, ②Pediatric-type diffuse low-grade gliomas, ③Pediatric-type diffuse high-grade gliomas, ④Circumscribed astrocytic gliomasの4つのカテゴリーに大別されていることである.
たとえば,①Adult-type diffuse gliomasにはa. Astrocytoma, IDH-mutant, b. Oligodendroglioma, IDH-mutant, and 1p/19q-codeleted, c. Glioblastoma, IDH-wildtypeの3種類の腫瘍(タイプ)が含まれている.②Pediatric-type diffuse low-grade gliomasには,第4版改訂版で登場したa. Angiocentric gliomaに加えて,新たに診断名として採用されたb. Diffuse astrocytoma, MYB- or MYBL1-altered, c. Polymorphous low-grade neuroepithelial tumor of the young (PLNTY), d. Diffuse low-grade glioma, MAPK pathway-alteredが含まれる.③Pediatric-type diffuse high-grade gliomaには第4版改訂版で登場したa. Diffuse midline glioma, H3 K27-altered ([注]Mではない)の他,新たに診断名として採用されたb. Diffuse hemispheric glioma, H3 G34-mutant, c. Diffuse pediatric-type high-grade glioma, H3-wildtype and IDH-wildtype, d. Infant-type hemispheric gliomaが含まれている.
一方,第4版改訂版で残っていたoligoastrocytomasは消失した.Anaplastic astrocytomaやAnaplastic oligodendrogliomaも消失し,Astrocytoma, IDH-mutantあるいはOligodendroglioma, IDH-mutant, and 1p/19q-codeletedの中でグレードを付与されることになった.
第5版ではEpendymomal tumorsは発生部位,分子型,組織型に基づき10種類(タイプ)に分類されている.
一方第4版改訂版で15個の診断名が付与されていたmeningiomaは第5版では1診断名(type)すなわちmeningiomaだけになり,その中に15のサブタイプを含むことになった.悪性度との関係が示唆されている分子プロフィールとしてNF2,AKT1,TRAF7,SMO,PIK3CA; KLF4,SMARCE1,BAP1 in subtypes; H3K27me3; TERT promoter,CDKN2A/Bが挙げられているが,未だグレーディングとは直結されてはいない.
その他,hemangiopericytomaは完全に引退し,SFT/HPCも退けられ,身体他部位と同じSolitary fibrous tumorと呼ばれることになった.
まだまだ多くの興味深い改訂項目があり,それぞれにその背景と今後の方向性が言及されている.Neuro-Oncology掲載の本総説はオープンアクセスになっているので,脳腫瘍に携わる各位の一読を推奨する.またNeuro-Oncologyの同一日onlineには,Wen PYとPacker RJによる “The 2021 WHO Classification of Tumors of the Central Nervous System: clinical implications” が掲載されており(文献1),新分類の臨床的意義を概説している.
一つだけ気になるのは,新規に加わった診断名には長いものが多い点で,Polymorphous low-grade neuroepithelial tumor of the youngは57文字,暫定登録とされてはいるもののDiffuse glioneuronal tumor with oligodendroglioma-like features and nuclear clustersは84文字になっている.略号があるとは言うものの,もう少し整理出来なかったのかとは思う.
なお,全ての臓器の腫瘍においてWHO第4版(とその改訂版)の表紙はネイビーブルーであったが,WHO第5版のシリーズの表紙はブルーで統一されている(blue book).

執筆者: 

有田和徳