H3K27トリメチル化の欠失は髄膜腫再発の予測因子である

公開日:

2021年8月10日  

最終更新日:

2021年8月11日

H3K27me3 loss indicates an increased risk of recurrence in the Tübingen meningioma cohort

Author:

Behling F  et al.

Affiliation:

Center for Neuro-Oncology, University Hospital Tübingen, Tübingen, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:33367841]

ジャーナル名:Neuro Oncol.
発行年月:2021 Aug
巻数:23(8)
開始ページ:1273

【背景】

WHO2016から登場したびまん性正中グリオーマでは,H3K27の変異が8割前後でみられる.この変異は遺伝子抑制ヒストン修飾であるH3K27のトリメチル化(H3K27me3)を著明に減少させる(欠失)ことを通じて腫瘍化に関与することが示唆されている(文献1,2).近年,グレード 2,3を中心とする髄膜腫症例でも,何らかの理由によるH3K27me3の欠失が再発と関わっていることが報告されている(文献3,4).テュービンゲン大学脳外科チームは自験の全てのグレードからなる脳・脊髄の髄膜腫1,103例を対象に免疫染色におけるH3K27me3の欠失(loss)と再発の関係を検討した.平均追跡期間は40.3ヵ月.

【結論】

単変量解析では男性,若年,腫瘍の存在部位(頭蓋内),再発後の腫瘍,Simpsonグレード 4や5,高いWHOグレード,高いMiB1値(>6.9%),H3K27me3の欠失が再発と関係した.
多変量解析では男性,再発後の腫瘍,Simpsonグレード 4や5,高いWHOグレード,高いMiB1値,H3K27me3の欠失が再発の予測因子であった.これらの因子は5年以上の追跡群466例の解析でも有意であった.
術後放射線治療は,独立した予後良好因子であった(RR 0.27,p<.0001).

【評価】

WHO2021では髄膜腫で認められる分子プロフィールとしてNF2,AKT1,TRAF7,SMO,PIK3CA,KLF4,SMARCE1,BAP,H3K27me3,TERT promoter,CDKN2A/Bが上がっている.一方,再発と関係する分子プロフィールとしてはNF2,PI3K,HH(Hedgehog),TRAF7,TERTなどが報告されている(文献5,6).既にGrade 2,3が過半数を占める髄膜腫症例群(232例)とグレード 3(anaplastic meningioma)の髄膜腫症例群(47例)においてH3K27me3欠失が再発や予後不良の予測因子であることが報告されている(文献3,4).
本研究は,特殊な髄膜腫集団ではなく,テュービンゲン大学で2003年から2015年に施行された脳・脊髄の髄膜腫の連続1,347例のうち,免疫染色による評価が可能であった1,268例を対象としたいわばreal worldでの髄膜腫症例におけるH3K27me3欠失の意義を検討したものである.内訳はWHOグレード 1が78.9%,グレード 2が19.7%,グレード 3が1.3%であり,通常の髄膜腫集団であることがわかる.
1,268例中,60例(4.7%)にH3K27me3欠失が認められている.臨床データの欠落がない1,103例ではH3K27me3欠失は57例(5.2%)で認められ,H3K27me3残存群(retained)(1,046例)に比較して,無再発生存期間が有意に短かった(Log-rank,p<.0001).既にH3K27me3欠失は,身体他部位での悪性腫瘍でも腫瘍の発生あるいは悪性化と相関していることが示唆されている(文献7).このシリーズでもMiB1高値群(>6.9%)では低値群に比較してH3K27me3欠失腫瘍の割合が高かった(18.3 vs 3.9%,p<.0001).
さらに,H3K27me3欠失腫瘍の割合はatypical meningiomaで9.9%,chordoid meningiomaで14.3%,rhabdoid meningiomaで16.7%,anaplastic meningiomasで20.0%と腫瘍の悪性度とも相関がうかがえる.
抗H3K27me3抗体は複数のメーカーから市販されており,免疫染色での評価が可能なので,今後臨床応用は広がりそうである.また,他領域の腫瘍ではH3K27me3とその調節因子をターゲットとした治療オプションも検討されている(文献8,9).
髄膜腫でも悪性化や再発と相関する分子プロフィールが次々に明らかになりつつあるが,臨床現場としてはそれらをターゲットとした新規治療の登場に期待しながら,男性,再発後の腫瘍,Simpsonグレード 4や5,高いWHOグレード,高いMiB1値などリスクの高い腫瘍を丁寧にフォローして再発を早期に発見し,定位的放射線照射や追加切除を実施するというのが現段階での対応になろうか.

執筆者: 

有田和徳