腰椎穿刺は腰部変形性椎間板症のリスクを高める:ロチェスター疫学プロジェクトから

公開日:

2021年8月24日  

最終更新日:

2021年8月26日

Lumbar Puncture Increases Risk of Lumbar Degenerative Disc Disease: Analysis From the Rochester Epidemiology Project

Author:

Moinuddin FM  et al.

Affiliation:

Mayo Clinic Neuro-Informatics Laboratory, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:32694488]

ジャーナル名:Spine (Phila Pa 1976).
発行年月:2020 Oct
巻数:45(20)
開始ページ:E1326

【背景】

変形性椎間盤症(DDD)の発生には多くの要因が関与しているが,炎症性サイトカインが発症に重要な役割を果たしていることが示唆されている.先行する腰椎穿刺は腰部DDDの発生リスクとなり得るのか.メイヨークリニックのMoinuddinらはミネソタ州Olmsted郡の住民レベルコホートであるロチェスター疫学プロジェクトを用いて,この問題を検討した.2004年からの5年間に腰椎穿刺を受けた950例(年齢中央値49.2歳,女性54.7%,BMI中央値26.9)を対象として抽出した.対照は年齢,性,BMIをマッチさせた1,876例.

【結論】

5年間の腰部DDDの累積発生率は腰椎穿刺群で13.8%,対照群で9.4%であった.Coxの多変量回帰解析では腰椎穿刺はDDD発生の有意のリスク因子であった(HR1.33,p=.003).腰椎穿刺の際の透視装置の使用は,非使用に対して有意にDDDの発生リスクを下げていた(HR 0.55,p=.049).

【評価】

DDDの発生には,加齢,生活環境,生体力学的負荷,遺伝学的素因を背景に(文献1),椎間板細胞や浸潤マクロファージにおけるIL-1b,IL-6,IL-8などの炎症性サイトカインの発現が関わっている(文献2).腰椎穿刺は重要な神経学的診断手技ではあるが,手技的なミスや繰り返し穿刺によって線維輪や髄核の炎症を引き起こす可能性が存在する.この住民レベルコホートに基づく研究では腰椎穿刺が変形性椎間板症の有意のリスク因子であることを明らかにした.著者らは腰椎穿刺によって引き起こされたサイトカイン・カスケードが腰部DDD発生の因子となっていると推測している.
細い針と少量の造影剤を用いた椎間板造影でも,10年間という経過では椎間板変成を加速させる可能性が既に指摘されている(文献3).
また著者らが,腰椎穿刺を受けた患者群のうち臨床背景が詳細な730例で解析したところ,高年齢と高いBMIは有意のリスク因子であったが(年齢10歳の上昇につきHR1.36,p <.001,BMI1ポイント上昇につきHR1.04,p=.007),腰椎穿刺の際の透視装置の利用はそのリスクを下げることが判った.これは,透視装置の利用によって,より正確で安全な腰椎穿刺が実施されたことを反映しているのかも知れない.しかし,腰椎穿刺の手技料が安い反面,透視装置の利用は面倒でコストもかかり,放射線被曝の可能性もあることから,著者らは超音波断層装置の利用を勧めている(文献4).
本論文は,腰椎穿刺と腰部DDD発生の関係を検討した初めての研究として意義は大きいが,腰椎穿刺の理由,実際の穿刺回数,血性髄液(traumatic tap)の有無などは不明であり,椎間板の損傷については推測の域を出ない.今後著者らはこの点を自らの前向き登録研究で明らかにすべきであるが,外部コホートでの検証も必要である.

<コメント>
単純だがとても興味深い研究である.もちろん研究の性質上,椎間板への誤刺入があったかは不明であり,腰椎穿刺と椎間板障害の因果関係を直接証明するものではないが,透視装置を使った方がその後の椎間板障害のリスクが低いという結果は,現代の臨床医学では,もはやanatomical landmarkのみで穿刺手技を行うことが正当化できなくなってきていることを示している.実際,私が研修医のころに何の補助手段も使わずに行っていた中心静脈穿刺,動脈穿刺,脳室穿刺なども,現在のレジデント教育では最初から超音波診断装置(エコー),ナビゲーションシステム,脳室穿刺ガイドを使ってより安全に行うことが標準となりつつある.私の所属する施設では麻酔管理のための術前末梢静脈確保でさえ,ときにエコーガイド下に行っており,かえって時間がかかっているように見受けられるときもあるが,安全な医療の提供,医療技術の標準化(平たく言うと,センスに依らず誰でも同じ手技ができるようになるということ)から得られるbenefitを考えると,これも当然のことなのかもしれない.反面,脳外科が関与することの多い腰椎穿刺のためにCアーム,それが使用可能な環境(オペ室や血管造影室への入室)を確保する手間を考えると,この論文を受けて明日から腰椎穿刺は画像ガイド下に,という決断はまだつけられないのも本音である.
(University of Iowa 脳神経外科 山口智)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

山口智