血管内血栓除去はCTをスキップした方が予後が良い:スペインにおけるRCT

公開日:

2021年8月24日  

最終更新日:

2021年8月25日

Direct to Angiography Suite Without Stopping for Computed Tomography Imaging for Patients With Acute Stroke: A Randomized Clinical Trial

Author:

Requena M   et al.

Affiliation:

Unitat d'Ictus, Hospital Universitari Vall d'Hebron, Barcelona, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:34338742]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2021 Aug
巻数:e212385
開始ページ:

【背景】

脳主幹動脈閉塞(LVO)に対する血管内血栓除去術(EVT)を一刻も早く実施するためにCTもスキップ出来ないだろうか.バルセロナVall d'Hebron大学脳卒中センターは,2018年から2年間に受け入れたRACEスコア5点以上でLVOが疑われる患者174例を対象にこの点を検討した.89例は着院後直ちに血管撮影室に搬送され,そこでフラットパネルCTで出血がなくLVOが確認できれば,鼠径部穿刺が行われた(DTAS群).85例は着院後CT室に搬送され必要な評価を行った後に血管撮影室に搬入した(DTCT群).
LVOと診断されたのはDTAS群74例,DTCT群73例であった(修正ITT解析の対象).

【結論】

両群とも約半数がtPA投与を受けた.LVOが確認出来た症例で,実際にEVTがおこなわれたのはDTAS群で74例(100%),DTCT群で64例(87.7%)であった.DTAS群ではDTCT群に比較して着院-穿刺時間(18 vs. 42分,p<.001),着院-再開通時間(57 vs. 84分,p<.001)ともに有意に短かった.両群間でEVT後の再開通率(mTICI)に差はなかった.修正ITT解析ではmRS1ポイント上昇の調整共通オッズ比はDTAS群で2.2であった(p=.009).症状悪化,梗塞巣の症候性出血,手技上の合併症の頻度に差はなかった.

【評価】

現在日本でも広く普及している3D-DSAが可能な回転式のフラットパネルディテクターであれば,血管撮影室に搬入した後にフラットパネルCTを撮影し,出血やEVTの適応から外れる大きな虚血巣を見分けることが可能であることは既に報告されている(文献1,2).また,フラットパネルCT使用が可能な血管撮影室への直接搬送によって,着院-穿刺時間を大幅に短縮出来ることも報告されている(文献3).
本研究はスペインの年間約1,000例の脳卒中を受け入れる三次センターで実施されたRCTである.RACEスコア(文献4)5点以上でLVOが強く疑われる症例(実際は全例RACEスコア6点以上であった)を通常の手順でCTを行いその結果をもとにEVTの適応を判断する群(DTCT群)と直ちにフラットパネルCTが可能な血管撮影室に搬入する群(DTAS群)に分け,その治療転帰を比較したものである.その結果は,着院-穿刺時間,着院-再開通時間ともDTAS群で25分前後短縮していた.また,発症90日目の機能予後も大幅に改善していた.既に,再開通までの時間の遅れが機能予後の低下につながることが報告されているが(文献5),本研究はそのことを改めて証明したということになる.
気になるのはフラットパネルCTの精度で,虚血巣の大きさをどこまで正確に評価出来るのかという点である.しかしこの問題は,フラットパネルCTの機能が現在もどんどん進化していることと(文献6),CTと血管撮影装置が一体化したAngio-CT室の普及も進むことが予想されるので今後はあまり大きな問題にはならないのかも知れない.
本論文中の最大の疑問は,着院-再開通時間は57分と84分で有意差はあるが,発症-着院時間が2群とも約4時間であるので,発症-再開通時間には大きな差はないはずである.それでも,mRSスコアに明瞭な差がついたのは何故か.著者らによれば,DTAS群ではCTのように細かい虚血巣の評価が出来ないため,RACEスコアに基づきLVOと診断した症例のすべてでEVTが行われた.このため,CT群で排除されたような大きな虚血巣のLVOもEVTを受けた可能性があり,これが機能予後(mRSの改善)が良かったもう1つの理由であるかも知れないと示唆している.
いずれにしても,本研究の着眼点はユニークであり,今後多施設共同研究で検証すべき結果であるように思われる.

<コメント1>
LVOに対するEVTにおける時間短縮の重要性は広く知られており,最近のメタ解析では治療が1秒遅れると健康寿命が2時間程度失われると報告されている(JAMA Neurol. 2021 Jun 1;78(6):709-717).
その中でCTをスキップして血管造影室に直接搬入,治療を行う試みは以前から報告されており,どれもdoor to punctureが30分程であった.本研究もその有用性を示す素晴らしい結果を報告している.しかしながらCT(MRI)skipプロトコルでの課題としては①血管内治療医のfalse activation,②再開通療法の対象症例の判断(tissue imaging)の困難さを挙げることが出来る.
従って,まずはLVOに対して感度・特異度の高い病院前スケールの作成が重要である.本邦においても学会を挙げたLVO判断スケールの策定を行っている.
またtissue imagingについては,最近DSA機器(flat panel detector)を用いてのhemodynamicsの評価が可能となった.中でもrapid-DSAはtissue at riskの評価法として期待を集めており,今後の有用性が期待されている.
(長崎大学脳神経外科 堀江信貴)

<コメント2>
日本でもdrip and shipなどの場合,直にDSA室へ移動しDSA装置によるCT(フラットパネルCT,dynaCT,cone beam CT)で粗大な出血のみを否定して血栓回収を行うことはよくある.
この論文は,年間1,000人程度の脳卒中を受け入れるスペインのVall d'Hebron大学脳卒中センターからの報告である.発症6時間以内のLVO疑い174症例をダイレクトDSA室(DTAS)群とCT群にランダマイズした.重要なポイントは,全症例のうち70%強がdrip and shipなどの転送患者であること,つまり前医での画像評価が行われている可能性が高いということである.そのため,RACEスコア5点以上(RACEの元々の論文ではLVOの陽性的中率42%)の患者においてLVOの陽性的中率79.3%(138/174例)と非常に高い確率でLVOが確認され血栓回収が行われている.
結果として,DTP(着院から鼠径部穿刺)中央値は,DTAS群が18分でありCT群42分に比較して24分短縮している.また発症3ヶ月後のmRS 0~2がDTAS群43.2%,CT群27.4%とDTAS群で非常に良好であった.DTPの20分の差でここまで改善するのかは少し疑問である.
DTASの問題点としては,①通常のフラットパネルCTの画質では虚血巣の大きさの評価はしばしば困難であり,すでに虚血性変化が大きい症例をどのように除外するのか,②搬送に時間のかかった症例や前医での滞在時間の長い症例などについてはやはりCTによる虚血の評価が必要な点,③大動脈解離症例を適切に除外できるのか,④昨今問題になっているCOVID疑い症例にどう対応するのかなどがあげられる.しかしながら再開通までを短くできるといった観点からは,今後フラットパネルCTで虚血巣の正確な評価が行えるようになればDTASは有用と思われる.フラットパネルCTのさらなる画質向上に期待したい.
(鹿児島市立病院脳神経外科 西牟田洋介)

<コメント3>
前方循環の主幹動脈閉塞に対する第二世代の血栓回収デバイスの有効性を検討した5件のRCTの生データをメタ解析したHERMES研究では,再灌流までの時間と発症90日目の障害度との関連を認めた.すなわち4分遅れるごとに治療患者100例のうち1例の障害度が悪化するという結果であった.本研究では発症から再潅流までの平均時間はDTAS群290.5分,DTCT群326.9分とCT skipにより36分以上の有意な時間短縮が得られ,転帰改善に有意差を認めている.まさしく「Time is brain」を証明した研究である.3D-DSAが施行可能なDSA装置であればCT like imageは撮影可能であるため,今後は同様のプロトコルで診断・治療する施設も増えていくものと思われる.
(県立広島病院 脳神経外科・脳血管内治療科 岐浦禎展)

執筆者: 

有田和徳