三叉神経痛に対する神経減圧手術後3年目の疼痛完全消失率は80%:日本における多施設前向き登録研究

公開日:

2021年8月25日  

最終更新日:

2021年8月25日

Microvascular Decompression for Trigeminal Neuralgia: A Prospective, Multicenter Study

Author:

Mizobuchi Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Faculty of Medicine, Tokushima University, Tokushima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:34325470]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Jul
巻数:nyab229
開始ページ:

【背景】

本論文は日本脳神経減圧術学会が実施した三叉神経痛に対する神経血管減圧手術の長期効果と合併症に関する前向き多施設研究の結果である.対象は2012年4月から2015年3月の間に,本邦の18施設において三叉神経痛に対して神経血管減圧手術が実施された166例(女106例,平均年齢62.7歳,右患側63.9%).84.3%でABRモニタリングが行われた.82.8%ではSCAが責任血管であり,11.1%はSCA以外の動脈が責任血管であった.3.7%がくも膜炎,2.4%が静脈性圧迫が原因と考えられた.

【結論】

手術後1週目において,131例(78.9%)で疼痛が完全消失していた.軽度の疼痛が残った患者でもその後の改善は46.7%で認められた.再発はSCA群19.4%,非SCA動脈群5.9%,非動脈群55.6%であった.手術後3年までの経過観察が可能であった155例のうち124例(80.0%)で疼痛が完全消失しており,6例(3.9%)では薬物治療を要しない軽度の痛みが残った.合併症率は手術後1週間目で16.3%であったが,3年目には5.2%に低下した.その内訳は顔面知覚低下1.9%,複視1.3%,聴力低下1.3%,その他0.6%であった.

【評価】

本論文は,日本における経験15年以上のエキスパート達が行った三叉神経痛に対する神経血管減圧手術の成績を明らかにしたものである.その結果,術後早期と術後3年において疼痛の完全寛解がいずれも80%で得られることがわかった.2020年発表のシステマティック・レビュー(3,897例)では,三叉神経痛に対する神経血管減圧手術後平均1.7年後の疼痛消失の頻度は76.0%であるが(文献1),本報告の頻度はそれよりやや高い.また約4%の患者では痛みが薬物なしで自制可能なまでに改善している.手術死亡例は無い.長期に残存する合併症も5.1%と上述のシステマティック・レビューや他の報告よりは少ない(文献1,2).優れた成績である.
本論文の著者らはその優れた治療成績の理由を,他国では未だ行われている圧迫血管と三叉神経の間へのprosthesisの挿入ではなく,圧迫血管の剥離・移動という我が国のエキスパート達が採用している基本的な手術コンセプトに求めている.手術死亡や重篤な合併症がないのは,やはり絶対的な静脈温存という手術コンセプトが貢献していると思われる.
一方,人口の高齢化と共に三叉神経痛患者における高齢者の比重も高くなっており,本シリーズでは60歳以上が105例(63.3%)を占めているが,この年齢群でも手術3年後の疼痛の完全消失は81.8%,合併症率も4.0%と比較的若年者同様であった.
この報告はこれから当分の間,我が国における三叉神経痛に対する神経血管減圧手術の治療成績の標準となるであろう.
この治療成績をさらに向上させ,合併症率を低下させるのは一見困難に見えるが,次の世代が挑戦すべき課題である.

<著者コメント>
2012年日本脳神経減圧術学会運営委員会において,MVD評価法標準化プロジェクトの一環として,運営委員施設での顔面痙攣,三叉神経痛におけるMVDの成績,合併症の前向き研究を行うことが決定された.本論文は2015年までに登録された結果をまとめたものである.三叉神経痛に対するMVDでは,18施設,166例の症例が登録された.3年間の調査期間における脱落症例による治療成績へのバイアスを最小限にするために,参加施設の先生方には予後調査を徹底的に行っていただいた.結果として93.4%もの症例において長期の予後調査を行い得た.治療成績では,3年後の長期予後で,痛みの完全消失は80%に認め,合併症も5.2%に抑えられていた.この結果は,欧米,アジアにおけるhigh volume centerの治療成績と比べても遜色のないものであり,我が国におけるMVD手術のレベルの高さを証明できた論文と考えている.今後,MVDにおける論文作成時に,日本における治療成績の標準として引用していただければ幸いである.
(徳島大学脳神経外科 溝渕佳史)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

溝渕佳史