術中マンニトールの投与はいつ始めるべきか:頭蓋内圧亢進を伴う脳腫瘍患者を対象としたRCT

公開日:

2021年9月4日  

最終更新日:

2021年9月4日

Comparison of 1.0 g/kg of 20% mannitol initiated at different time points and effects on brain relaxation in patients with midline shift undergoing supratentorial tumor resection: a randomized controlled trial

Author:

Zhang JJ  et al.

Affiliation:

Department of Anesthesiology, Huashan Hospital of Fudan University, Shanghai, China

⇒ PubMedで読む[PMID:34359042]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

マンニトールは開頭手術中の脳の弛緩,脳圧コントロール目的で常用されている.投与開始後30-45分で効果が最大になると考えられることから,皮切開始と同時にマンニトール投与を開始することが多い.本当にそれがベストか.
上海復旦大学華山医院脳外科は,天幕上腫瘍で正中偏位が認められる100例を2群に分けて50例は麻酔導入直後,50例は皮切と同時に,脳外科医には判らないようカバーした20%マンニトール(1.0 g/kg)の投与を開始した.投与時間は20分.投与開始から硬膜切開までの中央値[IQR]は麻酔導入直後群で66[55~75]分,皮切同時群で40[38~45]分であった(p<.001).

【結論】

投与されたマンニトールは両群とも約300 mL.麻酔導入直後群では皮切同時群に比較して,術者の主観的な脳弛緩4段階スコア(1 完全弛緩,2 まあまあの弛緩,3 硬い脳,4 脳の膨隆)が良好(スコア1/2/3/4の順に,n=14/26/9/1 vs 3/25/18/4,p=.001)で,硬膜切開直前の硬膜下圧は低かった(中央値5[3~6] vs 7[5~10]mmHg,p<.001).麻酔導入直後群では,硬膜切開までの尿量が多く(中央値1,000 vs 805 ml,p=.001),体液のプラス・バランスの程度は少なかった(中央値425 vs 700 ml,p<.001).

【評価】

何気なく皮膚切開と同時に開始している術中マンニトール投与であるが,本研究では,皮切と同時よりも麻酔導入直後(挿管直後)の投与開始の方が,硬膜下圧は低く,硬膜切開後に術者が感じる脳の弛緩の程度も良好である事を明らかにした.
従来の報告では,脳梗塞,外傷,脳出血などではマンニトール投与開始から頭蓋内圧の最大低下までの時間は30分から45分と報告されているが(文献1,2),これらの報告では,他の脳圧下降薬が併用されていたり,マンニトール投与の繰り返し投与が許容されていた.より最近の,天幕上腫瘍患者を対象とした研究ではマンニトール単回投与後45分間は頭蓋内圧が低下し続けていることが示されている(文献3,4).
マンニトール投与後の血清浸透圧は,投与終了段階(15分の投与時間であれば,投与開始後15分)で最高値になり,その後6時間をかけて徐々に低下することが知られている(文献5).
本研究では,硬膜切開時の血清浸透圧(mOsm/L)や血清中のマンニトールの溶質量を反映する浸透圧ギャップ(血清浸透圧−[2×Na+血糖/18+BUN/2.8])は,皮切同時投与群の方が高かった.この事は麻酔導入直後群では硬膜切開の段階(マンニトール投与開始後の中央値66分)ではマンニトール血清濃度も血清浸透圧もピークを過ぎてかなり時間が経過していることを示唆している.
マンニトールの頭蓋内圧低下作用は,BBB(血液脳関門)を介した浸透圧勾配(血管内>組織)を作り出し,組織内から水を血管内に移動することによってもたらされる(文献6).本研究の結果を見ると,頭蓋内圧低下作用や脳の弛緩作用は血中マンニトールの濃度とはパラレルではなく,より緩徐に進行する過程であることが推定される.もしかすると,このことは大きな脳腫瘍に特異的な事かも知れない.
では著者らも示唆しているように,もっと早い段階,たとえば手術室入室時にマンニトール投与を開始したらどうなんだろうという疑問は起こる.ただし,これだとマンニトール投与で起こる血行力学的な変動が麻酔導入と重なることになるので,麻酔科医にとっては嫌だろうなとは思われる.また,尿道カテーテル挿入前の膀胱充満も麻酔導入のリスクかも知れない.
そうなると,麻酔導入終了後のマンニトール投与がベストチョイスということになる.それでもなお短時間で開頭操作が終了した症例で,強い脳圧亢進が予想される場合は,硬膜切開はマンニトール投与開始後少なくとも60分は待つというような配慮が必要かも知れない.
何れにしても,比較的容易に出来る研究であるので,他施設での検証を待ちたい.

執筆者: 

有田和徳