脳外科論文における共著者数のインフレーションは何故起きたのか:1980年から2020年の脳外科4大ジャーナルの解析

公開日:

2021年9月4日  

最終更新日:

2021年9月4日

Increasing author counts in neurosurgical journals from 1980 to 2020

Author:

Cole TS  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Barrow Neurological Institute, St. Joseph's Hospital and Medical Center, Phoenix, Arizona, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34359040]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

近年,アカデミックポストの採用にあたって,応募者の科学的生産性の1指標である執筆論文数が重視されている.それと平行して,脳外科においても単一論文当たりの著者数が急速に増加しつつある.フェニックスBNIのColeらは,過去40年間の脳外科4大誌(Neurosurgery, Journal of Neurosurgery(JNS), JNS: Pediatrics, JNS: Spine)における著者数の解析を通して,実態と背景の解明を試みた.過去40年間の4大誌の著者数の増加率は0.12~0.18/年であった(p<.001).

【結論】

1980~1985年と2016~2020年の期間における論文1個当たりの平均著者数はNeurosurgery誌で,2.81(1.4SD)から7.97(4.92)に,JNS誌で2.82(1.04)から7.6(3.65)に増加していた(共にp<.001).逆に単一著者論文は同期間で10.8%から1.3%に減少していた(JNS).またこの期間で著者数10人以上の論文の割合はNeurosurgery誌で0.2%から22.3%へ,JNS誌で1.9%から17.5%に増加していた.この著者数の増加に対する研究実施施設や部門の増加の寄与率(決定係数:R2)は28%に過ぎなかった.

【評価】

この研究は,過去40年間で脳外科4大誌における1論文当たりの著者数が約3人から8人に増加し,10人以上の著者が連なる論文も今や約2割に達していることを示している.この急速な著者数の増加の理由を多施設共同研究や学際的研究の増加に帰することが出来るのは3割に過ぎなかった.では何が理由か?本論文では,明言を避けてはいるが,テニュア・トラックあるいはテニュア採用における審査のあり方が言及されている.
日本でもアカデミックポストの採用に当たって,採用者側は,応募者の能力の指標として,教育歴,臨床業績,研究業績を評価することになる.研究業績には著書,総説,原著論文,症例報告,国際学会での講演,競争的資金の獲得などが含まれる.それぞれの質的評価が出来れば理想的だが,多忙な採用者側にそのような時間があるはずもなく,勢い数量が評価対象となりやすい.その中で最もわかりやすいのが,原著論文の数とそのインパクト・ファクターの合計である.
教授候補者の中には40歳代後半で英文原著論文数(筆頭著者論文+共著論文)100本を超える者もいる.特に有名大学・大教室のスタッフに多いが,若くしてそんなにたくさんの仕事が出来るはずはないから,たぶん出身教室教授が教室員に命じて,論文執筆者に将来どこかの教授候補者になりそうなスタッフの名前も入れるように指示しているのか,あるいは教室員に自然にそのような “お作法” が身についているのかも知れない.このようなgift authorshipやhonarary authorshipの風潮は近年益々支配的になってきているように感じるが,この論文を読むと世界的な傾向であることが判る.
これに対して,採用者側は筆頭著者の論文のみをカウントするとか,共著論文は共著者数で割ってから加算するなどの「抵抗」を試みてはいるが,やはり総論分数を知りたいというのも本音である.
同様な論文著者数の増加(インフレーション)は三大医学雑誌(NEJM,JAMA,BMJ)でも見られ,この増加は研究の規模,研究参加患者数に影響されておらず,この状態はauthorship creepと名状されている(文献1).
注目すべきは,この論文数という計量は,ポストの採用のみならず,患者からの評価や医師相互間の評価にも用いられるという事である.患者は病院ウェブサイトから医師の論文業績を見て自分や家族にふさわしい経験と研究歴があるか知ることが出来る.また,論文査読者も筆頭著者らコレスポンディングがどのような専門性を有し,各領域でどのくらいの実績があるかをResearchGateで容易に知ることが出来る.
本論文の考察で興味深いのは,米国で査読有り論文(共著を含む)を有している脳外科レジデント応募者(多くは医学部卒業後1年目)が2006年の47%からわずか6年後の2012年には97%に増加,査読有り論文数の中央値も0から3本に増加,その他の報告(学会発表抄録など)も含めると2.5本から9本まで増加しているというKistkaらの報告である(文献2).Kistkaらの論文では,この間に不当申告(misrepresentation)も33%から45%へ増えたことが報告されている.米国では少しでも良い環境・良い条件のレジデントのポストを得るべく応募者は50以上のプログラムに応募書類を送り,激しい競争を繰り広げているが,応募者が論文数を重要なアピールポイントとして捉えているということがわかる.このように,米国では脳外科レジデントになる前から,そしてレジデントとしてトレーニング中も論文数を常に意識する環境で過ごしているわけで,そのような意識は同じ部門内で共有され,そのことが自然とgift authorshipやhonarary authorshipを生み出す土壌となっていることは想像に難くない.程度の違いはあれ,その他の国においても同様な環境が論文数と共著論文の増加の推進力になっていると思われる.
医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)は医学雑誌著者の条件を下記の全てを満たす者と定義している(株式会社 翻訳センターより引用)(文献3).
1. 研究の構想またはデザイン,あるいは研究データの取得,解析,または解釈に実質的に貢献した.
2. 論文を起草したか,または重要な知的内容について批評的な推敲を行った.
3. 出版原稿の最終承認を行った.
4. 研究のあらゆる部分について,その正確性または公正性に関する疑義が適切に調査され,解決されることを保証し,研究のすべての側面に対して説明責任を負うことに同意した.
また,この定義に沿って,Neurosurgery誌もAuthorship Limitations and Requirementsの項で上記以外の貢献者は謝意(acknowledgement)の対象であり,Honorary or guest authorship is not acceptable. と明記している(文献4).
最も重要なのはICMJEの著者の定義4で,もし論文に重大な不正があった場合には筆頭著者やコレスポンディングと同様その他の共著者もアカデミックポストを失う時代になっているという時代認識は必要であろう.

執筆者: 

有田和徳